夢見る仔猫の恋物語

 いつまでも大好きなたった1人だけに贈る、たった1つの真実の物語。
わたしが綴る、深くて悲しくて切なくて、何よりも愛しい恋物語。
たとえもうわたしの言葉が届くことがなかったとしても、この物語は永遠にキミだけを愛しているという証。


 *


キミに贈る花は、はじめから決めてある。
花屋の中でどれにしようかと迷っているフリをしていても、本当は決めているのだ。
けれどなかなか切り出せなくて、ずっと迷っているフリをしている。
贈りたい花は3つ。
花束に出来そうな花は1つだけだが、どうにかして君に贈りたいと思った花だ。
1つは勿忘草。
もう1つはピンクの薔薇。
そして最後に、デンドロビウム・ファレノプシス。
【私を忘れないで】【我が心、君のみぞ知る】【変わらぬ愛】
花言葉に込められた想いがキミに届けばいいと願いながら、その花を選んだのだから。

『どうせいつか死ぬならそれまでは一緒がいいの。もう1度だけ好きと言わせて。
 
 どうせ君とこの手を繋ぐなら一生がいいの。いつまでも隣にいさせて。

 伝えたい言葉が伝わらない。
 こんな悲しいこと他にはない。
 なら僕は喉が裂けるまで歌う。
 だから君はそこから見てて。

 君に贈る花束にこの唄をのせて、添えた花言葉が届きますように』

歌の通りに、届けばいいと思う。
僕はこの歌を聞くたびに、そう思う。
本当に、たった1つ君に伝えたい言葉を伝えたいと思う。
君はもういいと言った。
すべて清算して終わりにしたいと。
それが償いだとも言っていた。
そんなこと、1度だって望んだことなかった。
僕は本当にただ君と一緒にいたいと願っただけだった。
君の本当の望みが知りたくて何度も何度も聞いたけど、いつだって1番聞きたい言葉は言ってくれなかった。
それでも君が少しでも傍にいてくれるなら、それだけで良かった。
嘘じゃない。
他には何も望んでいないから。
どれだけ言葉を重ねても伝わらない想いが溢れて、僕を苛み続けていたとしても、それで構わなかった。
たった1人だけ。
今まで、ずっと嘘や偽りを重ねて生きてきた僕が求めた、最初で最期の相手。
信じてもらえるなんて、もちろん思っていない。
僕は知っている。
君と僕とは同じ人種だ。
だから、きっと君は僕を信じることなんて、出来ない。
嘘は嘘で塗り固めて、相手が自滅するのを待つ生き方をしてきた僕だから。
何度も後悔して、何度も泣いた。
最期まで貫いた嘘は真実に昇華すると言ったのは僕自身だから、今更何を言っても信じてもらえないことなんて承知している。
それでも信じて欲しいと願ってしまった。
愛されたいと願ってしまったのは、僕だから。
キミは悪くない。
キミだけが僕を殺せる。
それは何も物理的に壊すという意味の殺すに限らない。
何もしなくても、君は僕の『ココロ』を壊せる。
たった一言だけで、君は僕を殺すことが出来る。
未来も、夢も、希望も、これまで築いてきたものも、スベテを壊すことが出来る。
君はきっと、壊すための鍵を持っているのは僕だと思っているのだろう。
僕がその鍵を使うことが出来たなら、そうかもしれない。
僕は君の『ココロ』は壊せなくても、『君を形作るもの』を壊すことが出来るから。
手に入らないのならいっそスベテを壊して何もかもを傷つけて、本当に嫌われて、怨まれるようになろうかと思ったことも、ないわけじゃない。
そうすることで君の深い場所に破片となって生きられるなら、それでもいいと思ったことだってあった。
逆に、スベテと引き換えに君を望めば辿り着けることもわかっていた。
僕がどっちを選んだのかは、君がよく知ってるだろう。
たくさんの花の入ったガラスケースを覗きながら、僕は嗤っていた。
ガラスケースに映る僕は透き通った透明な存在に見えた。
これだけ綺麗な存在なら、君は僕を傍に置いてくれるだろうか。
君の誕生日。
君は、何を望むだろう。
僕は君に何を贈ることが出来るだろう。
ふと目に飛び込んできたのは、血のように赤い真紅の薔薇だった。
一際存在感をアピールするようにガラスケースの中で自己主張をしているその花は、どこまでも色鮮やかで美しく見えた。
大輪の薔薇の花が僕を見ているように錯覚するほど、僕はその薔薇を凝視していた。
ちょうど視界に店員の姿はないので、僕のその怪しい様子を見咎められることはないだろう。
仮に店員の姿があったとしても、僕なんかを気に留めるはずもないのだが。
 
君に贈る花が、増えた。

深紅の薔薇の花言葉は【永遠に貴方を愛しています】。
いつまでもずっと、変わらぬ愛を君だけに捧げる。
そう。
死んでも永遠に。
君に僕が選んだ花が届くことはないだろう。
何故なら、君がそれを望まないことを僕は知っているから。
僕は君の想いを知っている。
本当は、ずっと知っていた。
さよならを許せない僕たちの弱さが良かった。
最後まで笑ってる強さをもう知っていた。

もう泣かない。
もう泣けない。

何故なら、僕は・・・・・・・・・。





わたしがもし、もう2度とキミと言葉を交わすことが出来なくなっても、わたしがキミに贈る物語に込められた想いは、きっと届くと信じ続けていたいと思った。
キミがわたしを信じられなくても、わたしはわたしの想いを誰よりも信じられるのだから。
だから、これはわたしだけの物語。
たった1人のために綴り続ける、永遠に終わらない、深い愛の物語。
恋が愛に変わった日から、わたしはもう囚われていて、ただキミがそれを知らないだけだから。
はらはらと舞い散る花びらのように、降り積もる想いがキミの元へ届きますように・・・・・・。
製作者:月森彩葉