この星に願えるならば

 夜眠る前、いつも祈っていた。

 ――神様。どうか、あいつを殺してください――





 朝、学校の教室の扉を開けた弓削(ゆげ)(かおる)を迎えたのは、嘲りを含んだクラスメイトたちの冷ややかな視線だった。
 それをいつもの事と無視して自分の席へと向かい、気づかれないようにそっと溜息をついた。
 机の上には牛乳パックや紙くずなどのゴミがうず高く積まれている。その下には「バカ」だの「死ね」だの、お決まりの罵詈雑言が書かれているのだろう。見なくともわかる。
「――くだらない」
 口の中で呟いて、馨はクラスメイトたちに背を向ける。どう思われようが、何と言われようが構わなかった。ただ、今すぐにこの場から立ち去りたかった。
 途中、廊下ですれ違った教師に呼び止められたが無視を決め込んだ。追いかけてくる声を振り払うように早足で歩く。
 昇降口で鞄に入れていたローファーに履き替えると、代わりに上履きを鞄へとしまう。そして、口うるさい教頭に見つかる前に裏門へと向かって走った。
 誰にも見つからずに裏門に辿り着くと、鞄の口がちゃんと閉まっている事を確認してから門の外へ向かって放り投げる。それから手馴れた様子で門を乗り越え、外へと出た。

「――なんだ、サボリかよ?」

 鞄を拾おうと屈んだ時、どこか面白がるような青年の声が降ってきた。顔を上げ、声の主を見遣る。
 年齢は17か18くらいだろうか。長袖のシャツにジーンズというラフな格好で、長い水色の髪を無造作に背中に垂らしている。青年のエナメルブルーの瞳が愉悦を含んで輝いた。
 関わり合いにならない方がいい。瞬時にそう結論を出すと、馨は拾い上げた鞄を肩にかけ、青年の横を通り過ぎた。
「……て、無視かよ!? オイ!」
 当然だろう。誰が好き好んで自分から妙なのと関わると言うんだ。青年の叫びを聞きながら、馨は胸中で呟く。
 青年はなおもその場でブツブツと何か言っていたようだが、そのうちにハタと我に返り、馨を追って走り出した。
「ちょっと待てよ! なぁ、おいってば!」
 しばらくは無視して早足で歩いていた馨だったが、やがて根負けしたように足を止めると溜息をついて振り返った。
「……ボクに何の用だ?」
 嫌そうにそう尋ねる。
「お前、オレを呼んだだろ?」
 青年の言葉に、馨の眼差しが険しくなる。
「悪いが、ボクにはキミを呼んだ覚えはない。キミの勘違いだろう」
「でも、確かにお前の声だと思ったんだがなぁ……」
 食い下がるような青年の呟きに、馨は冷ややかな笑みを向けた。
「カルトに用はない」
 一言で切り捨て、何事もなかったかのように歩き出す。
「……だ、誰がカルトだ!?」
「キミだ。カルトでないなら新手のナンパか……どちらにせよ、用はないな」
 馨の言葉に青年は言葉を失った。先を行く馨の肩を掴んで、無理やり振り向かせる。
「カルトでもなけりゃ、ナンパでもねぇっ! オレは死神なんだよ!!」
「死神、ね……」
 バカにしきった顔で笑い、馨は青年の手を振り払う。
「充分カルトだろうが」
 そう吐き捨てると、馨はその場から走り去った。





 駅近くのコンビニで菓子パンとペットボトルのジュースを購入し、馨は市立図書館へと向かった。毎日のように通っているせいですっかり顔馴染みになった司書に目礼し、奥まった所にある机に荷物を置いた。いつの間にやら縄張りというものが出来上がっているらしく、周囲に人の姿はない。尤も、こんな朝早くから図書館に来ている人間は少ないだろうが。
 財布だけをポケットに突っ込むと、荷物はそのままに書架へと向かった。適当にぶらつきながら、目に付いた本を片端から手に取っていく。
 両腕に本を抱えて机に戻った馨は、そこにいた人物を目にして露骨に溜息をついた。
 水色の髪の軽薄そうな青年――それは、先程のカルトだかナンパだかの青年だった。
「――よぉ」
 馨に気づいた青年が、ひらひらと手を振る。
 不機嫌さを隠しもせず、投げ出すようにして本を置くと馨は青年の対面の席へと腰を下ろした。そのまま青年を無視して本を開く。
 暇を持て余したのか、それとも目の前の本の山に興味を示したのか、青年は一冊手に取るとパラパラとページをめくった。しかし、無言のまま本を脇に置いて二冊目へと手を伸ばす。訝しげに眉を寄せ、三冊目が手に取られた。四冊、五冊と本が積まれていくにつれ、青年の表情が困惑へと変わっていく。六冊目で、とうとう青年は机に突っ伏した。
「……お前、何を基準に本を選んでるんだ?」
「暇が潰せそうなものを適当に」
 視線は本に向けたままで、馨は言葉少なにそう答えた。
「暇潰し、ねぇ……?」
 呟いて身体を起こし、青年はもう一度本の山へと目を向けた。
 民話、歴史書、推理小説に怪しさ全開な魔術書。ジャンルに統一性というものはまったくない。強いて挙げるならば、撲殺出来そうなくらいに分厚い本ばかり、というのが唯一の共通点だろうか。確かに、これらを読破しようと思えば余裕で一日が潰れるだろう。
「暇潰しなら百科事典でも読め、百科事典」
 再び机に頭を落とした青年が力なく呟く。
「とっくの昔に読破済みだ」
 声と共に、読み終えたらしい本が机に置かれる音がする。伝わってくる重い振動を頭に感じながら、青年は「そーですか」と小さく呟いた。
「……それで?」
 馨の声に、青年は顔を上げた。
「結局キミは何者なんだ? 何が目的でボクにつきまとう?」
 真っ直ぐに彼を見据える強い眼差し。その視線を受け、青年はかすかに笑みを浮かべた。
「オレはゼノ。さっきも言ったと思うが、死神だ。目的は弓削馨、お前の魂を刈る事」
 ――死神? 魂を、刈る……?
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。けれど、ストンと落ちるようにその言葉の意味を理解する。
 刹那、怒りで視界が赤く染まった。
「ふざけるなッ!」
 叫びながら、机に手のひらを叩きつけて立ち上がる。その弾みにガタン、と大きな音がして椅子がひっくり返った。
「落ち着けよ。人が来るぜ?」
 冷めたゼノの声に我に返り、馨は倒れた椅子を起こして座った。
「まぁ、お前がオレの言葉を信じられないのも、無理はないと思うけどよ。オレは嘘は言ってねーぜ」
 頬杖をついてそう言うゼノに疑惑に満ちた眼差しを送り、馨は口を開いた。
「証拠はあるのか?」
「証拠、なぁ……」
 斬りつけるような鋭い馨の言葉に、ゼノは困ったように頭をかいた。
「ないわけでもないんだが……でもお前、オレが何を言ったところで信じないだろ?」
 図星を突かれ、馨は一瞬怯んだ。けれどそれを誤魔化すように頭を振る。
「し、真実味があれば信じてやるさ」
 苦し紛れの馨の言葉に、束の間、二人は無言で見つめ合う。
 どこか睨み合いにも似たそれから、先に視線を逸らしたのはゼノだった。
「わかったよ、説明すりゃいいんだろ? お前が納得するように」
 諦めたように溜息をつき、ゼノが呟いた。
「死神ってのは、誰にでも見えるもんじゃない。死期の近い者……正確に言えば、魂を刈られる者と刈る者、その相互関係が成り立った時に初めて視認する事が可能となる。人間からすれば、“死神を見ちまうとそいつに連れていかれる”って事になるのか? ま、正しくもないが間違ってもいない認識だな」
 そこで一度言葉を切り、ゼノは微妙な表情を浮かべた。
「夢見がちなヤツは【運命】だの【絆】だのと呼びたがるが……【一方的な契約】というのが正しいところだろうな」
「……随分と、勝手な言い分なんだな」
 顔を背け、馨が吐き捨てる。
「否定はしないさ。力関係が一方的すぎるのは事実だからな。どっちにしろ、そんなワケでオレの姿はお前にしか見えないんだが……これで納得してくれはしねーんだよな、やっぱり」
 溜息混じりに呟いて、ゼノは苦笑する。
「何もないところから、パッと鎌を出してパッと消したら信じてくれるかなぁ?」
「子供じゃあるまいし、手品に騙されるわけはないだろう」
 媚びるような笑みを浮かべて言ったゼノの言葉を、馨は一言で切り捨てた。
「そう言うと思ってたよ」
 苦笑を浮かべて呟くと、ゼノは頬杖をついていた手の人差し指でこめかみに触れた。
 負け惜しみの筈の言葉。けれどもその声音に当惑の色しか窺えず、馨は瞬いた。
「キミは……」
「ん? どうかしたか?」
 無意識のうちに口をついて出た呟きに応えられ、馨は不意に我に返った。自分が口にしようとしていた言葉の意味に気づき、思わず口元を手で覆う。
「馨?」
 気遣うようなゼノの声にそちらへと目を向け、けれどもすぐに背ける。
「……帰る」
 それだけをどうにか口にすると、馨は慌しく荷物を纏めて逃げるようにしてその場から立ち去った。





 勢いで図書館を飛び出したもののすぐに帰宅する気にはなれず、駅前の商店街をぶらついているうちにいつのまにか6時を回っていた。
「そろそろ帰るか」
 腕時計に視線を落として呟く。
 心配性の馨の姉は、いつも同じ時間に電話をかけてくる。その電話を無視すると後が色々と大変なのは経験済みだった。
 小さく溜息を吐き出し、馨は家へと向かって通りを駆け出した。
 駅から徒歩5分の、やや古びたマンション。そのエントランスを突っ切り、エレベーターへと向かう。しかし、二基あるエレベーターは両方とも上階へと向かったばかりのようだった。
 降りてくるのを待つよりは、階段を使った方が遥かに早い。舌打ちしてエレベーターとは反対側にある階段を一気に五階まで駆け上がる。
 全力疾走して部屋の前に辿り着くと、中からかすかに電子音が聞こえてきた。電話の呼び出し音だ。
「あぁ、もう。今出るから少し待ってろ!」
 鞄の中から鍵を探しながら、苛立たしげに吐き捨てる。散々引っ掻き回してようやく見つけ出し、ドアを開けると中へと飛び込んだ。
 乱れた呼吸を整えながら、下駄箱の上の子機を手に取る。念のためにと思って置いていたものが役に立ったようだ。
「――はい、弓削です」
『元気にしてた? 馨』
 電話に出ると、予想通り受話器の向こうからは聞き慣れた姉、沙希の声が聞こえてきた。
「元気にしてた? って、昨日も一昨日も、その前にも電話してきてただろ?」
 半ば呆れ気味にそう返し、馨は靴を脱いだ。放り投げていた鞄を拾い、居間へと向かう。
『そんなの気にしちゃダメよ』
 まるで少女のように笑う沙希に、馨は頭痛を覚えてこめかみに手を当てた。この姉に何を言ったところで無駄なのだ。
 気づかれないようにこっそりと溜息をつき、ソファに倒れこむようにして身体を投げ出す。
『それよりも、今日はいつもより帰りが遅いみたいだけど、どうしたの?』
 予想していなかったその言葉に思わず時計へと目を走らせ、馨は脱力してうなだれた。たかが10分くらいで騒がなくてもいいだろうに。
 しかし、面と向かってそう言うわけにもいかず、馨はわざと明るく言った。
「ちょっとね、図書館で調べ物をしてたんだよ」
(――これはウソ)
 図書館には行った。けれど、それは調べ物のためではない。学校をサボっているのを補導員に見咎められないためにだ。
「姉さん、悪いんだけど、ボク明日の授業当たるんだよ。予習しないといけないから、電話切るよ?」
(――これもウソ)
 学校に行く気なんて、まったくない。第一、今授業でどのあたりをやっているのかすらわからないのだ。予習も何もないだろう。
『あら、それじゃ邪魔しちゃいけないわね。また電話するわ、馨』
「こっちこそごめんね。それじゃ、また」
 そう言って電話を切ろうとして受話器を離し、少し考えてから再び受話器を顔に近づける。
「今度は、ボクの方から電話するよ」
 クスリと微笑んでそう告げると、今度こそ電話を切った。
「“今度”というのがいつかは知らないけれど、ね」
 そう呟いて、子機をぽんと放り投げた。





 電話が切られた後、沙希はしばらく受話器を手にしたままぼんやりとしていた。
 ――いつからだろうか? あの子が変わってしまったのは。つい最近のような気もすれば、ずっと前からだったような気もする。
 毎日のように電話しているくせに、馨の事が何一つわからない。いや、わかろうとしなかっただけなのかもしれない。
 一人称、話し方……きっと外見だって記憶している馨とは違っている筈だ。
 結局のところ、自分のやっている事は自己満足にすぎず、何の意味もないのだと。見ないよう目を背けていた現実を眼前に突きつけられた沙希は、溜息をついてそっと受話器を置いた。





「よぉ、やっぱりここに来たな」
 翌朝、図書館のいつもの席で馨を迎えたのは、ゼノの能天気な声だった。
「学生が学校に行かなくていいのかよ?」
「別に学校だけがすべてじゃないからいいんだよ」
 呆れたような問いかけに、机の上に鞄を投げ出して即答する。
「学歴社会の中で生きてるくせにそう言い切るとは……オレ、お前みたいなヤツ好きだぜ」
 肩を震わせて笑いながら、ゼノが呟く。
 相手にするだけ無駄と判断し、馨はいつものように本を探しに行こうとした。書架に向かおうとし、ふと椅子に無造作に置かれた鞄に目が留まった。
「それ、キミの?」
 何となく興味を抱き、尋ねる。
「ああ、オレのだよ。仕事用の資料が入れてある」
「……資料?」
「そうだ。今あるのは……」
 頷き、ゼノは鞄の中を漁った。あれでもない、これでもないと引っ掻き回すその様子に思わず笑い、馨は椅子に腰掛けた。本を読むよりも、ゼノと話している方がよほど面白そうだ。
「……お?」
 しばらくして目当ての物を見つけたらしいゼノが小さく声を上げ、一枚の写真を取り出した。
「今ある中で一番面白い物はコレか?」
 そう言って、机の上を滑らせるようにして写真を投げる。渡された写真に視線を落とした馨が思わず息を呑み、表情を凍らせた。
「これ、は……」
「一年くらい前の、お前の写真だよ。よく撮れてるだろ?」
 呻く馨を横目で見ながら、ニヤリと笑って嘯く。
 写真に写っているのは、セーラー服に身を包んだ長い黒髪の少女だった。どこかのホールと思しき舞台の上で、グランドピアノの横に立って微笑みを浮かべながら歌っている。
 ゼノの言う通り、それは一年ほど前の馨だった。
「今みたいに短いのも悪かないけどよ。お前は髪長い方が似合ってるとオレは思うぜ?」
 その言葉に、無意識に首筋に手をやる。
 うなじをどうにか覆う程度の短い髪は、まるで少年のよう。あの日から、自分が男であるかのように振る舞いだした。学校に行かなくなったのも――――

「――弓削馨、14歳中学3年生。コーラス部として、ソロで全国大会に出場した経験を持つ。2年の9月半ばに同部を退部し、不登校を始める。原因はクラスのいじめ」
 一息にそらんじたゼノに、馨は大きく目を見開く。
「なぜ、それを……?」
 問いかける声がかすれる。
「言っただろ? オレは死神だって。対象の情報くらい、事前に仕入れてくるさ」
 何でもない事のように軽く言ってのけ、肩をすくめる。そして、それまでのおどけたような表情を一変させた。
「――馨。お前、自分をいじめるやつが死んでしまえばいいって思った事があるだろ」
 図星を突かれ、馨はびくりと肩を震わせた。
 不意に、目の前に一つの光景が浮かび上がった。忘れたいと願い、心の奥底に封じ込めた記憶。


 三人の少女が馨を取り囲む。親友だと思っていた少女たち。
『ナマイキなんだよ』
 憎々しげに言葉が吐き捨てられる。
『ちょっと歌が上手くてカワイイからって、あんまり調子に乗るんじゃないよ』
 ――違う。そんな事、ない。
 かぶりを振って否定する馨を嘲笑い、少女たちは手にしたハサミを閃かせた。しゃきん、と音がして、自慢の長い髪が一房切り落とされる。
 ――イヤ! やめて! お願いだから……!
 懇願が聞き入れられる事はなく、少女たちは笑いながらハサミを振るい続けた。
『これに懲りたら、今度からは大人しくする事だね。そうすれば、また友達に戻ってあげてもいいよ』
 床に座り込んですすり泣く馨に投げつけられた言葉。それはどんな刃物よりも鋭く、馨の心に大きな疵をつけた。


「……あんなやつら、いなくなってしまえばいいのに」
 言葉と共に、涙が一粒零れ落ちた。
「あいつらがいるなら、こんな世界、いらない」
 箍が外れたかのように、後から後から涙は溢れ続けて。
「何もかも、消えてしまえばいい……っ」
「――自分自身も?」
 不意に、静かな声でゼノが問いかけた。
 熱に浮かされたような瞳で見つめる馨の前で、ゼノは訥々と語る。
「自分の生きる世界を否定するって事は、自分自身を否定する事だ。世界の消滅を願うのは、そのまま自分の消滅を願う事を意味する」
「……だから、貴方は私に訊いたのね。『オレを呼んだか?』って」
 泣き笑いの表情で、馨は呟いた。ありのままの少女の素顔で。
「ええ、そうよ。私は貴方を呼んだわ、ゼノ。彼女たちを殺して欲しいと願いながら、本当は私自身を殺して欲しかった……」
「……認めるんだな? オレを呼んだと。――受け入れるんだな? お前の、運命を」
 確かめるようなゼノの問いかけに、静かに頷く。
「それが、私が望んだ事……。――私は、貴方が来るのを、ずっと待っていました」
 囁く声に一瞬痛ましげに眉を寄せ、けれどもゼノは表情を消して頷きを返す。
「なら、オレも死神としての役目を果たす。――弓削馨、お前の魂を……刈る」
 囁いて、空を薙ぐようにして右手を真横に伸ばす。その手には、ゼノの身長と同じくらいの長さの大鎌が握られていた。
 淡く笑みを浮かべ、馨は床に跪いた。振り上げられる鎌の軌跡を目で追いながら、祈るようにして両手を組む。そして、その双眸が静かに閉ざされた。
 ゆっくりと、ゼノが鎌を振り下ろす。
 氷のように冷たい何かが、身体の中を通り過ぎていく。
 ――ありがとう……
 その囁きは声にはならず、吐息だけが零れ落ちる。微笑みを浮かべたままの表情で、ぐらりと馨の身体が傾ぐ。力なく倒れた少女の身体は、死神の手によって受け止められた。
 抱きしめるように、死神は少女の身体を胸に引き寄せる。
「蒼く震える哀しき魂……お前は、オレが連れて行ってやるよ」
 低く囁いて、少女のくちびるに己のそれを重ねた。


 力を失った少女の身体を抱き上げ、死神は深い闇色の翼を広げた。虚空へと舞い上がりながら考える。
 還ったならば少女に(からだ)を与えようと。自分と同じ存在として生きるために。
 硝子色の翼は、闇の色をした少女の髪によく映えるに違いない。
原型は学生時代に書いたもの。それをサークル用に改稿したシロモノでした。
たしかコンセプトは【性別詐称】だったかと。気づく人は序盤で気づく。
製作者:篠宮雷歌