少年探偵団 5

「たのもう!」
直人の学生証では生徒会室のドアは開けられないので声をかけてドアを叩く。
「はい?何かご用でしょうか」
ドアの中から顔を覗かせたのは、1年生の在原(ありはら)望美(のぞみ)だった。
「すまぬが、黒崎殿を呼んではもらえぬだろうか」
黒崎先輩ですか?少々お待ちください。
直人の注文に、望美はそう言って顔を引っ込める。
その勢いでドアが閉まったため、中の様子は一切窺えないが構う事はない。
すぐにドアが開いて、恭二が顔を出した。
「どうした?ご隠居。何かあったのか?」
「少し、一緒に来てもらいたい場所があるのだが時間はあるか?」
本当に呼びに来るとは思わなかったという恭二に直人は用向きを告げた。
僅かに考える素振りを見せた恭二だったが、いいぜ、と言って生徒会室からするりと抜けてくる。
背後に黒崎先輩!と呼び止める少年の声が届いたが、すぐ戻るとだけ言ってドアを閉めた。
「で、ご隠居、行先は?」
「うむ、大学部だ」
行先を尋ねる恭二に直人はそう答えるとさっさと歩き出す。
善は急げではないが、ここまできたらとことん調べてやるという心づもりだ。
既に混乱と困惑を通り越してはいるが、すべての謎は高宮教授という人が解いてくれるらしい。
「そういえば、お主は、【コンクエスト】の初代についてどの程度知っているのだ?」
もし恭二が初代のことを知っているのであれば話は早いのだが。
そう思って直人は一応そう訊いてみた。
基本的に関係者でもなければ知らない内容なので、まともな答えが返ってくるとは期待していない。
「え…いや、その…」
戦闘のDVDを見たことがある程度かな、と歯切れ悪く恭二は答える。
詳しく知っているとは言い難いその解答に、直人は科学準備室で見知ったことは内緒にしておかねばなるまいと心に決めた。
昇降口で靴を履き替え、外に出る。
そのまま、大学部の方へ向かって歩き出した。
目的は三郷キャンパスなのだが、徒歩で行くとなるとかなりの時間がかかってしまう。
そこで直人が思いついたのが、大学部同士を結ぶ専用のシャトルバスを利用するという方法だった。
「おい、大学部って言ってなかったか?」
校舎ではなくその向こうに見えるシャトルバス目指して歩いていく直人に、恭二が後ろから声をかける。
「大学部ではあるぞ。三郷キャンパスだが」
「…おい、なんでいきなりそんなトコに行くことになったんだよ」
あっさりと答えた直人に、恭二は半眼になってそう言った。
流れを知らない恭二からすれば当然の疑問だろう。
「理事長殿が、三郷キャンパスの高宮教授殿を訪ねたらすべての謎が解けると申されたのでな」
直人は再び意欲を取り戻す結果となった理事長の言葉を恭二に伝えた。
恭二はと言えば、そういう流れになった経緯をぜひバスの中ででも詳しく教えてもらおうか、とだけ言って結局ついていく。
何だかんだと言いながらも、恭二も気になって仕方がないのだろう。
2人がバスに乗り込もうとすると、そこには白衣姿の青年という先客が2名いた。
「お邪魔しまーす」
そう声をかけて、恭二がバスに乗り込む。
「失礼する」
その後に続いて、直人もバスの中に足を踏み入れた。
「え?ちょっと、キミたち高校生だろう?三郷キャンパスに何の用事があるんだい」
驚いたように声をかけてきたのは先客の白衣の青年ではなく、バスの運転手だ。
「かたじけないが、それがしたちは三郷キャンパスのある人物を訪ねなければならぬのだ」
大目に見てくれと直人が運転手に頭を下げる。
「いや、しかしね…」
高校生はマズイだろう、と運転手は2人を乗せるのを渋っているようだ。
「いいじゃん、三郷に用事なんだろ?オレが責任もって目的地に連れてってやるからさ、連れてってやろうぜ?」
軽い口調でそうとりなしてくれたのは、先客の白衣姿の青年の片割れだった。
どこかで見たことがある気もするが、自分たちよりもだいぶ年上に見えるので顔見知りではないはずだ。
「どうせ俺たちもただの使い走りみたいなものだしな…大学内の案内くらいは出来るだろう」
もう1人の青年も、助け舟を出してくれる。
最初に声をかけた青年よりも落ち着いた雰囲気があるが、恐らく年齢は変わらない。
「仕方ないですね…。じゃ、そろそろ時間なんで出しますよ。高校生さんたち、席に座って」
運転手はやれやれと言った様子で渋々了承すると、席につくように指示をした。
「かたじけない」
直人は再び頭を下げると、先に座っていた恭二の隣に急いで腰を下ろす。
「せっかくだし、自己紹介しとこっか。オレ、新田赤也、大学院生。本業は正義の味方」
自分を親指で指し、最初にとりなしてくれた青年がニカっと笑ってそう名乗る。
どこかで見たことがあるはずだ。
「なんと…、初代の【ジャスティスレッド】であったか」
直人は衝撃のあまりその感想を口にしてから、思わずしまったと隣に座る恭二を盗み見た。
校則で厳禁とされているのはあくまで現行部員の正体を明かしてはならない、ではあるが卒業生に関しても吹聴してはいけないという不文律があるのだ。
もっとも、初代に関してだけは、実は微妙なラインなのだが。
「お、マジ?オレって有名?」
やっぱ正義の味方って有名になるんだな、と新田は楽しそうに笑う。
「…初代っていうと、戦闘能力はずば抜けて高かったのに唯一征服されかかったという…」
ボソリと恭二が呟いた。
どうやら恭二にとってはそういう認識だったようだが、本人を目の前に言うのはどうかと直人は軽く脇腹を肘で突く。
その恭二の声が届いたのか、初代の【ジャスティスレッド】である新田が何ぃ!と声を上げた。
「あはは、赤也、負け越してるもんなぁ、ずっと」
それを聞いて、もう1人の白衣の青年がおかしそうに笑った。
「何っ!?お前だって散々負け越してるだろうが!」
言い返すように吠えたあと、新田は目を丸くした高校生2人組に対して、こいつは黒島拓海な、と説明する。
「では、そちらは初代の【ジャスティスブラック】であったか」
目を丸くして直人が驚きを露わにした。
初代【世界征服部】の戦力が局地的におかしかったせいでネタにされがちだが、この2人の戦闘力はずば抜けているのだ。
実際に同じようなスーツに身を包み戦いに身を投じている直人だからこそわかる凄まじさに、知らず尊敬の眼差しを向けていた。
「こら、ご隠居。OBに名乗らせるばっかじゃかっこつかないだろ。ええと、俺、黒崎恭二です」
最初の驚きから立ち直ったらしい恭二が人の良い笑みでそう名乗る。
制服で分かると思うけど、一応生徒会の人間ですと付け加えていた。
「それがしは樋口直人と申す。科学部の副部長をしている」
恭二が所属を明らかにしたので、直人もそれに倣って自己紹介をする。
そんな2人の名乗りに、新田と黒島の2人は一瞬目を丸くした後で顔を見合わせた。
「…生徒会と科学部が仲イイのって伝統なのか…?」
それはどうなんだ、とでも言いたげに黒島が微妙な表情を浮かべている。
「言うな。オレらの頃も仲良かっただろ…」
その横で新田が何故か明後日の方向に視線を向けた。
「…つまり、初代の頃も仲が良かったということであろうか?」
OB2人の発言から推測される内容に、直人が首を傾げる。
科学部と生徒会が仲良しでは何か問題があるのだろうかと一瞬疑問が頭を過ったが、その理由はさすがに見当がつかなかった。
「…初代の頃の生徒会っつーと…瑞貴ちゃんか」
直人の疑問の答えは、OBたちからではなくすぐ側の恭二からもたらされる。
そういえば昼休みに双子の兄から初代と忍足が仲良しであったというか保護者と被保護者の関係であったと聞かされたばかりだ。
いやしかし、確か忍足は初代の【世界征服部】関係者だと広瀬から暴露されたはずである。
「瑞貴なぁ…。えっと、恭二だっけ?なぁ、瑞貴って相変わらずなのか?」
恭二の言葉に、新田が苦笑を浮かべると身を乗り出して興味深そうに訊いてきた。
「相変わらずって言われても、俺、昔の瑞貴ちゃん知らないんだけど」
答えようがないと恭二が苦笑する。
そもそも知らないからこそこうやって直人と恭二は朝から色々と調べて回っているのだ。
相変わらず?などと聞かれても当然ながら答えられるはずもなかった。
「そりゃそうか…。そういや、何でお前ら三郷キャンパス何かに用あんの?」
オレらはただの教授の使い走りだけど、そっちは誰かに会うんだっけ?
「それがしたちが訪ねようと思っている御仁は、高宮教授殿と言うのだが」
ご存じだろうか、と直人が言い終わる前に、ガタっと音を立てて新田と黒島が思い切り反応を示す。
よほど有名な教授なのだろうか、と直人は首を傾げた。
「な、何だって前途有望な高校生が高宮教授を訪ねようだなんてことになったんだ…」
とても衝撃だったのか、黒島が呻くように呟く。
彼が何に衝撃を受けたのか理解できない直人と恭二はただ不思議そうに顔を見合わせるだけだ。
「悪いことは言わんぞ、興味本位で訪ねるんならやめておけ」
何故か新田が真面目な顔でそう言った。
何かの罰ゲームか?それとも特別な理由でもあるのか?と何やら親身になって聞いてくる。
そこにさっきまでの軽い調子は感じられなかった。
「実は…」
高校時代の知り合いだとわかっている相手に聞くのもある種反則のような気がしないではないが、直人はここに至るまでの顛末を2人に話す。
まずは昨日の【コンクエスト】での出来事に始まり、数々のウワサを並べた上で納得のいく解答が高宮教授から得られると言った理事長の言葉までを口にした。
一部、広瀬から知らされた内容だけは恭二の耳に入れるべきかどうか悩んで結局言葉にはしない。
直人は話しながら恐る恐る新田と黒島の顔色を窺っていたが、彼らは直人が最後まで話し終えるまでただ神妙な表情で言葉を聞いているだけだった。
特に驚きを露わにしたり苦笑したりするようなこともなく話を聞き終わった2人は、軽く顔を見合わせる。
「…つまり、樋口くんは瑞貴が【コンクエスト】に介入出来たことが不思議だと思ったんだね」
ひとつ頷いてから、黒島は重々しく口を開く。
まさしくその通りなので、直人はそうだと頷いて見せた。
「それに関して、元【正義の味方部】の俺から一言。瑞貴なら、何の問題もない」
きっぱりとした口調で黒島はそう言い切った。
彼もどうやら情報を提供してくれた教師陣同様に、全く疑問に感じていないようだ。
直人も実は広瀬によってあの事実を教えられた後の今となってはもしかすると出来るのでは、と思わなくもない。
しかしその結論に達するまでに得た他の様々な情報のせいで、むしろそちらの真偽を確かめたいという心境に至っていたためにここまでやってきたのだ。
「じゃあソレ以外に関しては…?」
ふと気になったのか、恭二が控えめに問いかけた。
それ以外?とOB2人が異口同音に首を捻る。
「瑞貴ちゃんが理系だったとか、T大入試問題解いただとか」
時系列で言えば本日最初に検証しに行った内容を恭二が問いかけた。
「バリバリの理系だな」
相違ないと頷いたのは黒島だ。
「そういや田代に頼まれて赤本に解答書いてたっけ、アレ確かT大だよな」
確かにあっさり解いていた、と新田も頷く。
他にも何か聞きたいことは?と水を向けられた。
「では…体育の授業に出たことがないだとか、病院通いしてたとかそういうのは…」
コレも情報の出所の半分は教師からだ。
恐らくさほど事実と食い違いはないだろうと思いながらも直人はそう問いかける。
「事実事実。割とよく休んでたし、結構な頻度で病院行ってたハズ」
実にあっさりした口調で新田はそう言った。
出来れば否定して欲しかったのだが、これも肯定されてしまう。
「ていうか、今もじゃないのか?どうせ薬漬けだろ?」
そればかりか、聞きようによっては酷い言い方で笑い飛ばされてしまった。
「流石にその言い方は本人に聞かれたら知らないぞ…」
新田の隣でやれやれと黒島がため息を零してはいるが、言い方に苦言を呈すだけで内容には一切触れない。
どうやら彼の中でも否定する必要はない内容のようだ。
次の質問をしようかと考えた時、バスが目的地に着いて止まった。
「着きましたよ」
では、いってらっしゃい、と運転手に見送られ、4人はぞろぞろとバスを降りる。
かたじけないと直人が言い、ありがとうございましたと恭二が続く。
バスを降りると、当然ながらそこは同じ学園であるということが信じられないくらいの別世界だった。
自分たちが通う校舎よりも新しく華やかで、大きな建物がそびえている。
恐らく校舎なのだろうと見当はつくが、自分たちの通う学び舎とは趣が異なっていた。
「それじゃ、高宮教授の研究室へ案内してやろう」
こうも広ければ迷うだろう、と黒島が直人と恭二を振り返る。
恭二は礼儀正しくお願いしますと頭を下げようとして、驚くべき人物を見て固まった。
「かたじけない、よろしくお願いする」
そんな恭二に気付いた様子もなく、直人が丁寧に頭を下げる。
恭二が動きを止めたことに気付いたらしい新田が、視線の先を追うように視線を巡らせた。
「ぉ。ちょうどいいところに…」
その視線の先では、類稀な美少女と表現して差支えのない実に可愛らしい少女が彼らの姿を見つけて手を振りながら近づいてくるところだった。
手を振り返して応えた新田の様子に、恭二は目を丸くする。
「あらあら?先輩方、人さらいですかっ?」
見た目通りの可愛らしい声で、近づいてきた少女は開口一番そう言った。
ダメですよ?先輩の年齢じゃ高校生の誘拐は立派な犯罪になっちゃいます、と鈴を転がす声で笑う。
「そんなワケあるか!」
軽い口調でそう言うと、新田は近づいてきた少女の頭を軽く小突く真似をした。
「誘拐じゃないんですかっ?でしたら、一体高等部の生徒さんが三郷キャンパスに何用で?」
目を瞬かせ、ふわりと首を傾げる。
その仕草に合わせて胸元まである柔らかそうな髪が揺れた。
ただソコにいるだけで人目を集める陽性の美少女なのだが、発言はやや過激である。
その少女に固まった恭二のみならず直人も見覚えがあった。
彼女は間違いなく1年上の先輩、つまり去年の卒業生だ。
しかしそれだけでは恭二が固まる理由にはならない。
「…モデルの…シオン…?」
何故こんなところにとでも言いたげに恭二は呟いた。
彼女も割と高等部で謎の伝説を築いた逸材であるということは直人も知っていたが、まさかそんな有名人であったとは知らなかったようだ。
恭二の言葉に、驚いて目を丸くしている。
「ちょうど良かった。この子たち、高宮教授のお客さんだ」
研究室まで案内してやってくれ、と黒島が声をかけた。
「あら。誘拐犯はすーちゃんでしたか!了解ですよ。ええと、天原詩音、大学1年生ですっ。どうぞよろしく」
因みに専攻は一応心理学です、と聞いていないことまで付け加え、彼女はにっこりと笑顔を浮かべる。
初心な少年を魅了するのに充分すぎる可憐な美少女の笑顔に、直人も恭二も自然と頬が上気するのを感じた。
「黒崎恭二です…」
よろしくお願いします、と緊張した声で恭二は照れたように挨拶を返す。
「それがしは樋口直人と申す。以後お見知りおきを…」
いつもの定型文を口にしたはずが、直人は何となく気恥ずかしさを覚えて頬を掻いた。
「はい、よろしくお願いしますっ。それじゃ、通称高宮部屋へご案内しましょう。っと、その前に、先輩方を呼び出した諸悪の根源から伝言預かってますよ?」
まるでツアーコンダクターのような口ぶりで直人と恭二を先導しようとした詩音だったが、ふと思い出したようにOB2人を振り返る。
「ぉ?何だ?」
伝言と言われたので、新田が何だろうと首を傾げる。
その反応に、詩音はニヤリとどこか少年ぽい笑みを浮かべた。
「俺様から単位が欲しければ取引しようぜ?とりあえず801講義室で待ってるからとっとと顔だせや、だそうですよ」
詩音は声色まで変えてそう言うと再び美少女の微笑みを湛える。
あまりの変わり身に、そういえばこの先輩、演技の天才と呼ばれていたなと直人は去年の記憶を辿った。
了解と黒島が苦笑で応えたのを受け、詩音は満足そうに頷いて見せると改めて高校生2人組に向き直る。
「それじゃ参りましょうか~」
こっちですよと手招きをしながら、彼女は軽い足取りで歩き始めた。
それじゃ失礼しますと慌ててOB2人に頭を下げると、直人と恭二は歩き始めた詩音を追いかける。
制服姿の2人は三郷キャンパスではかなり浮いていたのだが、詩音の眩しい笑顔の威光の賜物なのか特に咎められることもなく建物の中へと入ることが出来た。
そのまま淡い青灰色のリノリウムを歩いていく詩音を追いかけて建物の2階へと進むと、外の喧騒が嘘のように急に静かになる。
それだけで場違いな別世界に来てしまったような錯覚に囚われた。
どこをどう歩いたのか、自力で戻れと言われてもいまいち自信がなくなるほど歩いたところで、ピタリと詩音が足を止める。
目の前には大きな扉があった。
彼女はノックもせず、躊躇なく扉を開く。
「ただいまで~す」
そう言って部屋の中を覗きこむ。
ドアが分厚いせいなのか、中からは何の音も聞こえてこない。
「あ、直人くんと恭二くんでしたっけ。どうぞどうぞ、ようこそ、高宮ゼミへ~」
来い来いと手招きして、詩音は直人と恭二の2人を強引に部屋へ招き入れる。
「…ようこそ、魔界の代名詞、高宮部屋へ」
やたら広い部屋の端に並べられた机の1つから顔を上げて、大人しげな印象の少女がそんな物騒な台詞で出迎えてくれた。
直人はその少女に見覚えがある。
「…作家の、双樹沙羅…?」
確かつい先日読んだばかりの雑誌に、偶然だが彼女の記事が載っていた。
その内容があまりにもインパクトがあったため、何となく顔も覚えていたのだ。
「…詩音、この高校生たちは?」
あんた一体どこからかどわかしてきたの、と呆れ声で作家である少女は詩音に問いかける。
つい先ほどはその詩音の方がOB2人に対して似たような言いがかりをつけていたような気がしないでもない。
「梓お姉さま、残念ながら彼らはすーちゃんのお客様だそうです」
「ほう。すーちゃんの…」
それはまた、難儀な。
慣れた様子で部屋の戸棚から何やら茶器やら菓子類やらを取り出していた詩音の言葉に、梓と呼ばれた作家の少女はやれやれといった表情を浮かべた。
「とりあえず、そこのソファにでもどうぞ。あたしは橘梓、ソコの詩音の1つ上で、その高校の卒業生ね」
机に向かったまま、梓は扉に近いところに置かれてある応接セットを示すと、ついでとばかりに簡単に自己紹介をする。
名乗られた2人はそれぞれ本日3度目の自己紹介をした。
製作者:月森彩葉