Sincerely yours~親愛なるキミへ~ 一話
BGM:SE:複数の足音、ゆっくり歩く音
SE:ドアが開くガラっという音
翔「…な…おい!?大丈夫か」
SE:駆け寄る音
恵「え…あの…如何したんですか?」
翔「見んな!あー…恵は、兄貴呼んでこい!で、博、お前職員室で誰か呼んで来い!」
博「解りました!…ほら、行くぞ、恵」
恵「ちょっと…先輩、何があったんですか?」
博「いいから!ほら、行くぞ!」
SE:走り去る音
文也「…翔…?」
翔「…悪いな…、俺も…後で行くから」
文也「…そう…。それなら、イイよ…。殺して」
翔「…じゃあ、また後で…な」
文也「待ってるよ」
SE:刃物を勢いよく刺す音
SE:複数の足音、走ってくる
創「如何した!?何があった!?」
翔「…あぁ、先輩…。…見ての通りです」
創「救急車は!?」
翔「よりも、警察でしょうね」
恵「お兄ちゃん…何があったの?」
創「恵はこっちに来ちゃ駄目だよ。博と一緒に、そこにいなさい」
博「…俺、警察に電話するわ…」
SE:ドアの閉まる音
文也「はい、カット!やり直し!ちょっと、会長!何でそこで嬉しそうに笑うんです…」
翔「ニヤけるシーンじゃないんじゃない?」
創「ごめん」
天恵「気持ち悪いです、会長」
創「え!?ちょっと、酷過ぎない!?」
博将「惠が可愛いのは解るっすよ?会長」
天惠「可愛いって言わないでくれませんか」
創「可愛いじゃないか」
天惠「黙ってろ変態。…大体、何で僕が女装しないといけないんです?別に必要ないと思いますけど」
文也「似合うからイイと思うよ。大体、想像してみてよ。他の人に女装を強要して似合うと思うの?例えば翔とか」
翔「オレに女装とか、待って、文也、想像だけでもマジで待って!?つーか、無理あるだろ、体格的に!」
創「俺にも無理だよねぇ。それこそ本気で気持ち悪いって言われても仕方ないよ」
天惠「大丈夫です、会長は通常で既に気持ち悪いです、あと邪魔なんでリテイク出した罰としてお茶でも買ってきてください、全員分」
創「酷くない!?…妹役の時は、可愛いのに…」
天惠「…今、見てる風景を人生最後の風景にしましょうか?それと、勝手に僕の性別変えないでください」
翔「まて、落ち着け。台本が根本から書き換わる!」
文也「…翔、そういう問題じゃないからね…。桐生君、会長殺すと後で仕事増えるから止めておいてね?」
博「大体、そういう風に弄られる外見の恵が悪いんじゃない?声だって女子みたいだし」
翔「そうそう、ちっこいし」
天惠「まだ成長期なんです、今から伸びますよ」
文也「そのままの方が可愛くてイイと思うけどな」
天惠「嬉しくないですから。…で、会長、さっさと行ってきてください」
創「…天惠君、俺に対する扱い酷くない?一応さ、俺、君たちの先輩で、生徒会長なんだけど」
天惠「仕事は出来ない上に何の役にも立たない、木偶を尊敬しろと言われても無理です」
博将「いつも通り手厳しいな…。でも、会長、そろそろ行かないと実力行使されるんじゃないっすか?」
創「はいはい、買ってくるよ。皆、何時ものでイイよね」
SE:ドアの開く音
翔「会長もさ…結局言いなりだよな」
文也「翔…それ、禁句」
翔「それにしてもさ、何でオレらは生徒会室で寸劇に興じてるワケ?」
天惠「あの莫迦…失礼、会長が、折角の文化祭だから生徒会でも何か出し物を、と寝言を言った所為ですね」
博将「もう少し言うと、数ある荒唐無稽な案の中で、一番マシなのを皆で選んだ結果じゃないっすかね」
翔「メイド喫茶の案は酷かったよな。せめて執事喫茶だろ…ココ、男子校だぞ」
博将「瀬戸先輩…男子校で執事喫茶やっても、誰も来ないっすよ」
文也「そもそも生徒会5人で喫茶店運営も無理あるしね。校内の見回り如何する心算だったんだろうね、神崎会長」
博将「会長の事だから、深い意味無かったんじゃないっすか」
天惠「本当、莫迦ですよね、あの人」
翔「お前、ホントに会長にだけ毒舌なのな。普段は人当りのイイ大人しい子で通ってるくせに」
文也「生徒会役員以外、きっと誰も知らないよね。桐生君の本性」
博将「ホントは割と大人しくないよな、惠」
天惠「…博…だから、惠って呼ぶの止めてくれない…」
博将「いいじゃん、ホント、可愛いんだからさ」
天惠「同じ事を何度も言わせないでよ。だから、嬉しくないってば」
翔「世の中には言われたい奴もいるだろ?有難く言われとけよ」
文也「翔もあんまり後輩苛めないで。それ、言われて喜ぶのは女子だけだからさ」
SE:ドア
創「お待たせ!買ってきたよ~」
SE:缶だか何だかを並べる音、お菓子とか広げてそうな効果音
文也「会長、ありがとうございます」
翔「サンキュー、会長」
博将「早かったっすね、ありがとうございます」
天惠「お茶請けまで忘れずに買ってきた所は評価します」
創「リテイクの前に、今日の議題を消化しようかと思ってね。このまま、会議でイイかな、皆」
天惠「今日の議題って、学園七不思議でしたっけ…くだらない」
翔「そういうなって、天惠。生徒は怖がってんだからさ」
博将「うち、全寮制っすもんね。怖い人は怖いんでしょうね、投書に入ってたくらいっすから」
文也「でも、学舎の方だよね、七不思議って。文芸部の過去の冊子に学園七不思議について書いてあったのが残ってたので、取りあえず借りてきました」
創「あ、世良君、ありがとう。じゃあ、まず、各自その冊子に目を通すところからはじめようか」
翔「あ、オレ、5限目の授業の間に読んじゃった、文也に借りて」
創「授業はちゃんと受けようよ、一応生徒会役員なんだしさ」
文也「ほら、やっぱり言われただろ?ぼくは言っておいたからね、後で怒られるよって」
翔「だってお前が読むか?って聞いてきたんだろ?」
文也「ぼくは授業中に読めなんて一言も言ってないよ」
翔「あの流れだと、授業中の暇つぶしにって事じゃねーの?」
創「要するに、二年生組はもう内容把握済って事だよね。授業態度については、後日改めて追及するとして、俺たちもさっさと目を通す事にしようか」
天惠「…生徒会が七不思議について顔付合せて会議なんて、本当におめでたい学校ですね」
博将「いいじゃん、平和で。何かあるより、よっぽどイイだろ。先輩たちもそう思うっすよね」
創「まぁ、それはそうかな。…あ、これなんか面白そう。窓の外を飛ぶ生首とか」
天惠「…懐中電灯を携行していたなら、十中八九ガラスに映った自分の首でしょうけどね。制服の色が濃いから生首に見えただけじゃないですか」
創「じゃあ、夜中になったら増える13段目の階段は?」
天惠「会長みたいな間抜けな人が、床までカウントしたんでしょう?足元が暗い所為で気付かなかったんじゃないですか」
創「…えっと、それじゃあ……あ、これは?中庭にある湖の話」
博将「あれ?そんなのあったんすか?全部校舎だけだと思ってたのに」
翔「あったっけ?」
文也「冊子には無かったよ」
創「あれ?有名なのってもしかして3年生の間だけ?……何でも、心中した生徒の霊が出るって噂なんだけど」
翔「心中~?会長、ここ、男子校だって」
博将「だからこそ、叶わない恋ってやつっすか?全寮制なんで、そんなの直ぐに広まるっすよ」
文也「…作り話ですか?会長、だったらもう少し信憑性ある内容言いましょうよ、校長室の歴代校長の肖像画が夜中に校歌斉唱するとか」
創「やっぱり、すぐバレちゃうねぇ、流石生徒会」
天惠「会長、ふざけてないで真面目にやってください」
SE:バサバサと本やら紙やらが飛ぶ音
創「わぁ、ごめんって!投げないで!それ、借り物だから!」
台詞の途中からFO、徐々に遠くしていく
創「夏休みも終わりに程近い、夏の日。何でもない一日が、あんなに眩しくて、尊いものだったなんて知らなかった頃。いつか、この何気ない一日も、大切な一日として静かに思い出す日が来るのだろうか。…今はただ、それを願う事しか出来ないけれど」
<<タイトルコール>>
SE:蝉の声など、夏らしい効果音
創「それじゃ、今日の生徒会、はじめようか」
博将「じゃお茶淹れるっす。希望は?」
天惠「…じゃあ、マリアージュフルーレのマルコポーロで」
博将「まりあ…?へ?何ソレ」
創「生徒会室にそんなの置いてある訳ないでしょ、流石に。幾らすると思ってるの」
天惠「100グラム2000円以上ってところですか」
翔「おーい…オレ、そんな気を遣いそうなの飲みたく無えぞー?」
文也「会長…意外と博識なんですね」
創「意外とって何!?」
文也「冗談ですけどね。でも、そんな高いお茶はぼくも嫌です。勿体なくて逆にありがたみないし」
天惠「会長が自腹で用意してくれてもイイんですよ、別に」
創「買わないけど。そもそも、天惠君はラデユレのテ・メランジェとかの方が好きでしょ?マカロンとセットで」
天惠「何で勝手に人の嗜好暴露してるんですか。余計な情報は開示しないでください」
博将「…惠は、会長が嗜好を知ってる事に対しての疑問はないんだ」
天惠「ある訳ないでしょ?」
翔「会長の意外な一面が見えたって事で、博将、適当に用意してくれねーか」
博将「了解っす」
SE:ここから先、適度にお湯沸かす音とか食器の音
文也「庶務雑務担当って、お茶汲みじゃないんだけどね」
創「じゃあ、源君はお茶淹れながらでイイから聞いてくれる?ズバリ、今日の議題は学園七不思議の検証について、だよ」
翔「へ?文化祭の内容じゃねーの?最終詰めそろそろはじめねーと間に合わないんじゃ?」
文也「翔、先輩には敬語使いなよ。驚いたのは解るけどさ」
創「文化祭は、だって俺たち、寸劇するだけだしね。あと適当に巡回」
翔「テキトーって、会長、大雑把すぎじゃねーの…」
文也「だから、翔、敬語使いなって」
天惠「日本語としては正しいと思いますよ?適当という言葉の意味としては、要求等に相応しいこと、丁度良く合うという様な意味なんですから、会長は学校側から求められている生徒会の業務さえ果たせば、あとは手を抜いて良いと言ってるんでしょ」
博将「要するに上手く手を抜いてサボれって事っすか?」
翔「なぁんだ、会長からのサボってイイってお墨付き貰ったってことか」
文也「三度目だよ、一応、敬語ね。まぁでも、バレない程度に手を抜いてもイイっていうのは、生徒会長として問題発言だと思いますけどね?神崎会長?」
創「俺は別に手を抜いてイイともサボってイイとも言ってないんだけどなぁ。全部、皆が勝手に解釈しただけじゃないか」
博将「って言いながら、否定しない辺り、確信犯っすよね?会長」
文也「…本来、その意味って誤用だったって知ってる?源君」
博将「え?そうなんすか?それは初耳っす」
SE:カップ並べる音、ここで食器関係SE完了
文也「元々はね、本人が悪い事だと確信してやっている事じゃなくて、その逆の意味だったんだよ。悪い事じゃないと確信しながら為された犯罪とかを指す言葉だったんだけど、皆が今、源君が使った意味の言葉で使うから、何時の間にか辞書にも載るようになったという訳」
翔「さっすが文芸部!昔からだけど、文也って色んなこと知ってるよなぁ…」
天惠「意味が転じて久しい言葉は、貴様とかお前とか有名でしょう。いくら博でも知ってるでしょ」
博将「えっと、キサマって元々は、尊ぶ呼び方だったのが、昔の軍隊が部下をキサマって呼んだ所為で侮蔑用語になったんだっけ」
天惠「正解。元々は、兵隊って天皇陛下の子供を軍でお預かりしていますという建前だったからね。本来なら全員貴様呼びで、それなら意味も転じなかっただろうけど、上官は上官殿みたいに呼ばれた所為じゃないかな」
創「ねぇ、何で君たちココでちょっと為になる日本語講座なんて始めてるのさ。俺たちは生徒会役員で、今から今日の議題を片付ける筈なんだけどさ…」
文也「すみません、会長。だって、生徒会で議論する内容がまさかの七不思議だったので」
翔「そーそー。流石に、ちょっと本気かどうか疑ってさ。単に議題無かったのかなって思って」
天惠「お二方共、素直に下らないと仰って構わないと思いますよ。…会長、あの莫迦げた議題、本気で言ってるんじゃないですよね?」
博将「いや、だって、うちの会長っすよ?マジで言ってるっすよね」
創「…皆の言いたい事は解るよ?俺だって、マジで?とか馬鹿馬鹿しいとか、思うしさ。…でも、投書箱に入ってたんだから、仕方ないだろ?検証しないといけないんだよ、検証。で、七不思議なんてただのデマでしたって公表してあげないと、怯えてる生徒が可哀相じゃないか」
翔「つーか、高校生にもなって、本気で七不思議信じてる奴いんのかよ」
文也「あったら楽しいなっていう一種のロマン要素じゃないの?」
博将「よく、心霊番組とかで、色々言ってるけど、あれってヤラセばっかっすよね?」
創「…君たちが全然そういう類を信じてないのはよく解ったからさ。だから、検証して、何も無かったって公表してあげようよ」
SE:椅子の音、マジックの蓋を開ける音、ホワイトボードに文字を書く音
天惠「…つまり、こういう事ですか?」
翔・文也「「生徒会夏の自由研究、ドキっホンモノだらけの肝試し、学園七不思議編…?」」
博将「…惠のセンスとは思えない文字が並んでんだけど…」
創「そう!ソレ!題して、生徒会夏の自由研究、ドキっホンモノだらけの肝試し、学園七不思議編!ポロリもあるよ!、ってコトだよ」
翔「わざわざそんなノリノリで復唱すんなよ、会長」
文也「…ポロリって何なんですか…生首ですか?」
創「だって、面白そうでしょ?」
翔「まぁ、合法的に夜の学校で肝試しは、誰もが一度はやってみたい悪ふざけだけどさ」
文也「確かにまだ夏休みで、でも生徒会役員は学園側との兼ね合いがあって早めに寮に戻ってるからって…そんな遊び企画を無理やり突っ込んでイイんですか、会長」
創「どうせ皆、宿題とか終わってて、暇してるんでしょ?だったら、折角だから少しくらい遊んだってバチは当たらないんじゃないかな」
博将「流石会長、俺たちにできない事を平然とやってのける、そこに痺れる!あこが――」
天惠「(台詞を遮るように)憧れないから」
創「…少しくらい憧れてくれたってイイじゃない」
天惠「無理です」
翔「会長も話し逸らしてんだけど」
創「あ、ごめん。えっと、とにかくそんな理由だから、明日の夜から、善意の学舎内見回りを開始する方向でよろしくね。一応全員で巡回するけど、何人かずつで別れて回ろうか」
天惠「じゃあ会長はお1人でどうぞ。僕たちは適当にクジとかで決めますから」
創「もー…酷いんだから。えっと、それじゃ、今日の議題、終了!解散!」
製作者:月森彩葉