Sincerely yours~親愛なるキミへ~ 二話

SE:夜遅くを表現、フクロウとか

創「じゃあ、早速だけど、今日は生徒会で七不思議のひとつを検証しようか」

翔「会長、今、何時だと思ってんの」

文也「翔、敬語使いなっていつも言ってるでしょ…」

博将「今、夜中の11時っすね。流石に眠いっすよ」

天惠「…丑三つ刻にしなかった点だけは評価しますが、不法侵入ですよ?会長」

創「大丈夫だよ、生徒会の業務で校舎の設備点検兼ねてるって言ってあるから」

文也「…抜け目ないですね、会長。というより、学校側もよく許可しましたね」

翔「会長、何て言って許可取ったんだよ。うちの教師陣、頭硬いのにさ」

創「夜の校舎に忍び込んでいる生徒がいるって投書があったから生徒会で調査したい、教師に見つかると一発退学だから、生徒会として説得を試みたい、って言ってみたんだよ」

博将「夜の校舎に忍び込んでる生徒って俺らっすよね?まぁ、まだ未遂っすけど」

創「大丈夫大丈夫、事情がそんなだから、快く許可くれたし」

天惠「…まぁ、それで遭遇する予定の生徒が居たとして、何年前の在校生でしょうね?」

創「嘘も方便って言うでしょ?」

天惠「…ただの屁理屈ですよ」

翔「どうせ何も起こらねえだろうけどな」

文也「起こったら、ぼくたち全員怒られるじゃすまないんだろうね」

創「まぁ、早速だからチーム分けね。ほら、クジ引いて」

天惠「会長は当然お一人でどうぞ」

文也「それじゃ、たまにはぼくと組もうか、桐生君」

天惠「はい、よろしくお願いします、文也先輩」

翔「んじゃ、博将、オレと行こうぜ」

博将「了解っす、瀬戸先輩!」

創「せっかくクジ用意したのに」

天惠「それ、文化祭の内容決める時に使ったクジの使いまわしでしょう?」

博将「ところで会長、今日はどの七不思議を調査するっすか?」

創「あぁ、そうだったね。言うの忘れてたよ。今日は、怪奇!3階廊下に浮かぶ生首!人体模型は見た!、っていうのを調査してきてくれる?」

文也「つまり、3階の生物準備室付近の廊下を歩いて来ればいいんですね」

翔「夜の学校ってワクワクするよな!」

博将「じゃ、惠と世良先輩は東棟から、俺と瀬戸先輩は西棟から回って、南側の生物室前で落ち合うってコトでいいっすか」

創「え!?俺は!?」

天惠「会長はお一人で北側からどうぞ?それじゃ、行きましょうか」

翔「それじゃ、一同解散~っ」

SE:夜っぽい虫の声とかのSE+草を踏むような音

惠「知らぬが仏という言葉がある。それから、後の祭り。知らなければ良かった、気付かなければ良かった、そんな事を思う日が来るなんて、この時は思いもしなかった。過ぎ去った日々は美しいと言ったのは誰だっただろうか。振り返ってそう思う頃は、きっとその美しい日々を失った後なのだろう。だから、過去を懐かしんで皆そう言うのだ」

<<タイトルコール>>

SE:リノリウムを歩く音

文也「桐生君てさ…実は、こういうの苦手でしょ?」

天惠「こういうの、とは?」

文也「七不思議とか怖い話とか、そういうの全般。知られたくないのかなって思ったから、ぼくと組もうって誘ったんだけど」

天惠「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」

文也「そうは見えないけどなぁ。何でそんなに苦手なの」

天惠「……信じる信じないはお任せしますが、僕の兄が見える触れる祓える人なんです。小さい頃から間接的にそういうの経験したら、苦手になっても仕方ないでしょう?」

文也「へぇ。翔なら、喜びそうだけどね」

天惠「…きっと博も面白そうって言うと思いますよ」

文也「そうだね。…怖いならさ、こうしない?ちょっと、耳貸して…」

SE:リノリウムを歩く音、遠ざかって行く

SE:草を踏み分ける音

博将「それにしても集合場所から西棟って遠いっすよね」

翔「だったらオレらが東棟からって言えば良かったんじゃねえの?」

博将「俺らが西棟からの方がいいって、瀬戸先輩も思ったから何も言わなかったんじゃないんすか?」

翔「バレた?」

博将「バレバレっすよ」

翔「だってさ、遠いじゃん?歩く距離長いだろ?生徒会メンバーで一番体力のない文也を遠くまで歩かせるの、可哀相だろ?」

博将「そうっすね。あと、こんな暗い中、延々長い距離を歩かされたら、惠も可哀相っすよ」

翔「あー…泣きそうだな。何だかんだ言って、怖がってるもんなぁ」

博将「それ、本人に言っちゃダメっすよ。隠してる心算っすから、アレで」

翔「言わねえよ。なぁ、博将、いっそ、ダッシュで行かねえか?」

博将「いいっすね。ちまちま歩くの、性に合わないっす」

翔「それじゃ、行くぞ?位置に着いて、よーい」

翔・博将「どん!」

SE:駆け抜ける音

SE:遠くからリノリウムを走って来る音、だんだん近づいてくる

翔「そろそろ問題の生物室前だぜ!」

博将「そうっすね!」

SE:走り抜ける音

博将「瀬戸先輩!あれっ」

翔「ん?何処だ!?」

博将「あの窓のとこっす、見えるっすか?」

翔「見えた!やべえ、マジだ」

博将「七不思議って!」

翔「マジだったのかよぉー!!」

翔・博将「うわぁぁぁぁ!?でたぁぁー!」

SE:駆け抜けて去って行く音

SE:リノリウムに響く、靴音

文也「ただのピンホールカメラの原理なのにね」

天惠「…しかも解りやすく、女子高生に見える見た目なんですけどね」

文也「これなら、平気だったでしょ?怖がらす側に回れば、怖くないって何かで読んだんだ」

天惠「翔先輩と博の間抜けな悲鳴には驚きましたけどね」

SE:リノリウムを歩く音

創「…君たち、何してるのかな?」

文也「会長、早かったですね」

創「証拠隠滅されたら困るからね」

SE:リノリウムを走ってくる音

翔「会長ー!!」

博将「いたー!」

創「生徒会役員が廊下を走るなんて、他の生徒の規範になるべき立場なのに」

翔「そんな事言ってる場合じゃねえよ、会長!」

博将「出たっすよ!ホンモノの生首!」

翔「そうそう!そこの廊下に!」

博将「美少女だったっすよ!」

創「2人共、ココ男子校だって忘れてないか?」

翔「あ」

博将「そういえばそうっすね…」

文也「2人とも、まさか本気で驚いてくれた?」

翔「ってことは、文也が仕掛けたのかよ。どうやったんだ?」

文也「どうって、ピンホールカメラの応用だけど」

博将「…じゃあ、あの美少女は…」

文也「勿論、我が生徒会が誇る美少女、惠ちゃん」

天惠「…もう、ウィッグ取っていいですか?」

博将「え!せっかく可愛いのに!」

翔「くっそ、騙された!」

文也「あんな悲鳴上げると思わなかったから、驚いたのぼくたちの方だけどね」

翔「オレたちはココに生首が出るって聞いてきてんだぞ?そりゃ見たら驚くだろ、普通に」

博将「マジでビビったっすよ!」

創「…とりあえず、双方の言い分は良く分かったから、全員ちょっとソコに正座しよっか」

翔「へ?会長?」

創「いくらなんでも悪ふざけが過ぎるよね?キミたち」

博将「え…いや、やったのは俺らじゃないっす…」

翔「そうそう、悪戯したのは文也と天惠だし」

文也「翔、ルームメイト売り渡さないでよ…」

天惠「…そもそも夜の学校で何も起こらないの解ってるのに不法侵入なんて…」

創「だからってやって善い事と悪い事ってあるでしょ」

翔「そうだぞ!オレ、マジで吃驚したんだから!」

博将「恵たちだけで反省文書けよな」

創「瀬戸君と源君は、廊下走ったでしょ?しかも全力疾走で」

翔「…すんません」

博将「反省します…」

文也「(小さな声で)翔…見て…」

翔「(小さな声で)何だよ…次ふざけたら会長からガチで怒られんだろ」

文也「(小さな声)でもさ…会長の肩のとこ、見てよ」

翔「(小さな声)肩のとこ…?………げ、アレ…マジ…?」

文也「(小さな声)あ、やっぱり翔にも見える…?生首」

翔「(小さな声)見える見える!…ってか、仕込みか?」

文也「(小さな声)そんな訳ないでしょ!?」

博将「(小さな声)どうしたんすか、先輩たち」

翔「(小さな声)会長の肩んとこ見て見ろよ」

博将「(小さい声)肩のトコっすか?(普通の音量)か、会長!?」

創「どうしたの?俺、今怒ってるんだけど」

博将「いや、怒ってる場合じゃないっす!肩!そこ、首!!」

創「ん?首?」

博将「そう!生首!マジで!」

創「ああ、確かにちょっと邪魔だね」

SE:空を切る音

博将「……殴った…」

翔「…うわ、綺麗に裏拳決まった…」

文也「…幽霊ぶん殴る人…初めて見た…」

創「ほら、斎藤君(仮名)享年17歳の事はいいから、君たちちゃんと反省しなさい」

翔「…そんな詳細なプロフィール要らねぇ」

文也「仮名って…」

創「さっきの彼はこの学校の元在校生だよ」

博将「そんな平然と言わないで欲しいっすよ…」

天惠「………だから、肝試し感覚の七不思議ツアーなんて嫌だったんですけどね」

翔「天惠まで見える触れるぶっ飛ばせるのが当たり前見たいに言うなっての!!」

創「君たちが騒ぐから用務員さんまで驚いて見に来てくれちゃったじゃない」

文也「え?…すみません、用務員さん…って、どこですか?」

創「そっか、君たちには見えないのか。ここにいるよ、夜の校舎専門用務員さん、旧校舎時代からの勤続75年の大ベテラン、吉沢さん(仮名)だ」

翔・博将「すんませんでしたぁーっ!!」

台詞、F.O.

クロスフェードでSE:蝉の鳴き声

翔「…昨夜は散々な目に遭ったよな」

文也「そうだね…今日が一日寮に居られる日で良かったね」

翔「元はと言えば、お前と天惠があんな悪戯するからだろ」

文也「だって、普通に肝試し風になんてしたら、桐生君可哀相じゃない?」

翔「だからってオレらをハメてイイって話にはなんねーよ?」

文也「でも、楽しかったでしょ?ホントの七不思議みたいで」

翔「終わってみたらそうだけどさぁ…。昨日のアレ、どうやったんだ?」

文也「ピンホールカメラって知らない?これなんだけど」

翔「自由研究キットで並んでんのは見た事あるかな。つーか、そんなの用意してたってことは、昨日のアレは計画的犯行ってやつかよ」

文也「まあね。あんなに嫌がってたんだし、可哀相だと思って」

翔「随分と後輩にはお優しい事で」

文也「含みある言い方だね」

翔「そんなことねえだろ」

文也「ぼくが後輩ばっかり構うから拗ねてるように聞こえるけど?」

翔「なんでオレがそんなコトで拗ねんだよ!」

文也「冗談だって。そうやってムキになるからダメなんだよ、翔は」

翔「可愛げの無いやつ」

文也「それにしても、暇だよね。宿題とか7月中に終わってるし、かと言ってこの暑さで外に出る気にもなれないしね」

翔「まぁな。涼しくなれる事とかあればなぁ」

文也「じゃあ、ぼくが涼しくしてあげるよ。…昼間の怪談も、乙なものだよ?」

翔「馬鹿いえよ、こんな蝉も煩い真昼間に怖い話したって、全然怖くねえよ」

文也「そうかなぁ…。じゃあさ、ぼくが今から敷地内の何処かに隠れるから、探してよ」

翔「それの何処が怖い話って?ただのかくれんぼだろうが」

文也「うん、だから、時間内に見つけられなかったら、ぼくは死ぬよ?」

翔「はぁ!?何ふざけてんだよ。しかもそういう事を楽しそうに言うなっての。悪趣味だぞ」

文也「まぁまぁ。焦ったら冷や汗かくし、涼しくなるんじゃない?」

翔「ならねーよ。たまに、ホント突拍子もない事言うよな、お前…」

文也「一種の賭けだって。じゃあ、こうしよう…。ぼくは今から重大な事を翔に伝えるから、それに答えが出せたらぼくを探してくれない?」

翔「意味わかんねえんだけど。そもそもオレらの間に隠し事なんてあったっけ」

文也「実はあるんだよね」

翔「嘘だろ!?……オレに、隠し事なんてしてたのかよ」

文也「とりあえず、聞いてくれない?」

翔「…聞きたくない」

文也「何拗ねてるのさ」

翔「だって、幼稚園からずっと一緒にいてさ、オレ、お前に隠し事なんてした事ないのにさ。文也があるんだろ?オレに、隠し事」

文也「拗ねないでってば」

翔「だから拗ねてねえっての!」

文也「それじゃ、言うね」

翔「聞きたくねえつってんだろうが」

文也「実はね、ぼく、翔の事が好きなんだ…」

翔「はぁ!?当たり前だろ!?オレら幼馴染だろうが」

文也「そういう意味じゃなくてさ」

翔「んじゃ、どういう意味?」

文也「雨音が響いていますね、って事だよ」

翔「は?今、晴れてるけど」

文也「そうだね…やっぱり、翔には解んないよね。少し考えてよ、ぼくは外にいるからさ」

翔「さっきのかくれんぼの話?冗談じゃなかったのかよ」

文也「せっかくだから考えてみて?何なら知ってそうな人に聞いてもいいからさ」

翔「…あー…期待すんなよ。つか、外に出んの?」

文也「ずっと室内にいても滅入るじゃない。ちょっと風に当たってくるだけだよ」

翔「…そっか、いってらっしゃい」

SE:ドアがパタンと閉まる音

翔「…意味、わかんね…」

SE:蝉、草を踏み分ける音、微かな水音

天惠「…あれ?文也先輩?」

文也「桐生君、どうしたの、こんな場所で」

天惠「水辺なら少しは涼しいかと思ったんですけど、涼しく無いなと思ってたところですよ」

文也「寮の部屋に冷房あるのに」

天惠「博が、ずっと冷房に当たってたら身体に悪いって煩いんですよ」

文也「あぁ、うん、源君なら言いそうかも」

天惠「逆に文也先輩はこんな所でどうしたんです?」

文也「そうだね、ちょっと翔に宿題出してきて、その答え待ちってところかな」

天惠「…どんな宿題出したんですか」

文也「雨音が響いていますね、って」

天惠「…そうですか。じゃあ僕はこう言っておきますね。夕日がきれいですね、文也先輩?」

文也「まだ真昼間だよ」

天惠「解ってるくせに、そう言いますか」

文也「やっぱり、桐生君は知ってるんだねぇ、こういう事」

天惠「勿論です。文也先輩は、翔先輩と虹が見たいんですね」

文也「ああは、そうだね。まさかそう指摘されるとは思わなかったけど」

天惠「…それじゃ、僕はもう行きますね。…うっかり水に落ちないでくださいね、先輩」

文也「うん、ありがとう」

SE:水音

水音、蝉の声F.O. 

クロスフェード、夕方を思わせる虫の声とかそういうの

リノリウム歩く音

創「あれ?瀬戸君?」

翔「あ、会長。文也見なかった?」

創「見てないけど、探してるの?」

翔「昼間からまだ部屋に戻ってなくてさ…謎の宿題出されたままだから、早く答え知りたいんだけどさ…」

創「宿題?俺が代わりに教えようか?」

翔「会長で解るかなぁ…。あのさ、会長、雨音が響いていますって何?」

創「それを、世良君が言ったのかい?」

翔「そうだよ。意味わかんねえだろ…」

創「月が綺麗でしたね、って所かな。過去形だね」

翔「…それって、その…漱石的な意味?」

創「あ、月が綺麗ですね、は知ってたんだ」

翔「…授業で…」

創「そっか。…探すんでしょ?」

翔「探すよ。…過去形とか、ふざけてんのってカンジ」

創「もうすぐ寮の門限だから、早くね。明日から新学期なんだし」

翔「はーい、それじゃ!」

SE:リノリウム、走る音

SE:水音、草等

翔「文也っ!何処だ!?」

文也「思ってたより、早かったね」

翔「なんで水ん中にいるんだよ…」

文也「涼しいよ?」

翔「いいから上がって来いよ…風邪ひくだろ」

文也「それで?宿題の答えは?」

翔「…海じゃないけどさ…綺麗、だな」

文也「…そう」

翔「そうだよ、過去形にすんなよ」

文也「…死んでもいい、かも」

翔「それは困るからさっさと上がって来いよ」

SE:一際大きな水音、魚が跳ねるような
製作者:月森彩葉