Sincerely yours~親愛なるキミへ~ 四話

SE:放課後、ざわざわとした明るめの喧騒
SE:金槌で木材に釘を打つ音やら、鉄板で何かを焼く音、等

翔「如何にも文化祭って感じで、盛り上がってきたなぁ」

文也「前日から、わざわざ模擬店の飲食物を作る必要はないと思うけどね」

創「いよいよ明日だからねぇ、文化祭。クラスでは何をするんだい?」

翔「オレのクラスはたこ焼き屋やりますね。会長、食べに来てくださいね」

文也「ぼくのところは、舞台劇をやるらしいけど…面白くないかな、三流恋愛劇だし」

創「たこ焼きは美味しそうだねぇ。見回りのついでに寄ろうかな…」

翔「そういえば、一年コンビは何処行ったんです?」

文也「単なる巡回当番でしょ」

創「巡回いいなぁ、模擬店でつまみ食いし放題だよね」

文也「……それ、生徒会役員として如何なんだろう」

翔「あ、オレも食べたい!いいなぁ、一年コンビ」

文也「一年生たちはああ見えて真面目だから、食べ歩き巡回なんてしないと思うよ」

創「それにしても暇だよね。…せっかくだから、夏休み中に終わらせられなかった七不思議検証ツアーでも行ってこようかな。あと1つ残ってたよね」

翔「あぁ、そう言えば。最後、図書室でしたっけ」

文也「受験に失敗して図書室で自殺した生徒が夜な夜な参考書開いて勉強してるって話だっけ」

創「そうそれ。あと、ついでに屋上から、全体の雰囲気見て来ようかなって。屋上は危ないから立ち入り禁止だけどね」

翔「…まぁ、生徒会室に屋上の鍵ありますしね」

創「そういう事。じゃ、悪いけど、瀬戸君がお留守番ね。何かあった時、対処能力の高い方を残しておかないとね」

翔「あー…そうですね。オレの方がマシですし。じゃ、行ってらっしゃい。一年コンビが戻ってきたら、下らない理由で生徒会室を空けたって怒られると思うんで、早めに戻った方がいいですよ、会長」

創「そうだねぇ、惠ちゃんに怒られちゃうしね」

文也「…またその呼び方して」

翔「んじゃ、いってらっしゃい」

創「それじゃ、行ってくるね」

文也「一年コンビ帰ってくるの、待っててあげてね」

SE:ドアの音
SE:足音(一人分)

創「…さて、世良君。俺の言いたい事解るかな」

文也「勿論解ります。会長、今、割と怪しい人ですよ。人目があれば」

創「そういう事言っちゃうの?まったく、可愛くない後輩だね、君」

文也「それで言えば、一番会長にとって可愛くない塩対応してるのは、桐生君じゃないですか」

創「あの子はあれでイイんだよ…確かに昔はもう少し可愛かったけど」

文也「まぁ、もう、知ってますよ。会長と桐生君の関係」

創「それは君だけだよ、見てたんでしょう」

文也「そうですね、偶然ですけど。…やっぱり、屋上なんですか」

創「屋上じゃないと、俺、ホントに挙動不審な人になっちゃうでしょ」

文也「それはそれで面白いんじゃないですかね」

SE:ドア(重い感じ)
SE:風が吹き抜ける音

創「さて、ここなら邪魔も入らないし、聞かせて貰おうかな」

文也「そう言いながら、解ってるんじゃないですか?会長」

創「ある程度はね。…あんな風になるとは思わなかったけど」

文也「予想してたより大きな存在だったみたいですね」

創「…随分と嬉しそうだね」

文也「そうですね。ぼくの予想通りなら、この後の結果は見えてますからね」

創「それを笑顔で受け入れる辺り、世良君も大概に壊れちゃってると思うけどね、俺は」

文也「今更じゃないですか?それに、会長には言われたくないです、歪みっぷりは」

創「そうかも…。それじゃ、イイんだね?」

文也「そんな何度も確認しなくても、大丈夫ですよ。ぼくはぼくなりに納得してるんで」

創「そうか。まぁ、そこそこ晴れやかな笑顔だし、お節介はこんなトコかな」

文也「まったくです。本当に、お節介なんだから、会長。じゃ、ぼくは先に行きますよ」

創「わかった。俺はもう少し屋上から、文化祭の準備眺めてから、戻るよ」

文也「うっかり落ちないでくださいね」

創「俺そんな駄目キャラだと思われてるの…?ちょっと落ち込むよ?」

文也「冗談です。それじゃ、お先に」

創「うん。いってらっしゃい」

SE:風が吹き抜ける音

創「…さて、七不思議は図書室だっけ」

SE:足音FO

博「二学期も始まって間もない、文化祭前日の放課後。学校中が浮足立っていて、午前中だけあった通常授業も上の空だった。雲ひとつない快晴に、準備の為に中庭やグラウンド、敷地内を走り回れば、あっという間に汗が噴き出るくらいの暑さだった。明日もきっと晴れるだろうと思わせる真っ青な空は、夕方になって茜色に染まっても陽が落ちて月が顔を覗かせても、やっぱり雲ひとつない空だった。…雨でも降っていれば、と少しだけ思った」

<<タイトルコール>>

SE:事務仕事的な音、書き物とか、書類捲るとか
SE:電話着信音A

翔「はい?もしもし?」

博将「あれ?瀬戸先輩?これ、世良先輩のケータイっすよね」

翔「あー…何でかオレが持っててさ。んで、如何した?」

博将「えっと、今、文芸部の人が、世良先輩探してて、だったら電話したら早いかなって思ったんすけど」

翔「あぁ、今、会長と校内巡回中だから、オレから会長に掛けてみるわ、折り返す」

博将「あ、生徒会室、行ってたんすね。よろしくっす」

SE:終話

SE:ボタン音

創「はい、神崎。如何かしたの?」

翔「えっと、今、博将から文也に電話があって、何でも文芸部の部員が探してるとかって」

創「成程。ちょっと待って………あ、うん、ごめん。もう、俺も一緒にいなくてさ。生徒会室に帰ってないなら、寮に戻ってるかも」

翔「解りました、博将にそう伝えます」

創「よろしくね。もし、寮に居なければ、行き倒れてるかもしれないから探してあげて」

翔「あぁ、ですね。文也、身体弱いしね。でも、行き倒れてるなんて言ったら、怒りますよ、きっと」

創「そうかなぁ。怒られはしないと思うけど、あ、でも拗ねるかもね」

翔「まぁ、伝えます。それじゃ、会長も早く戻ってきてくださいね、生徒会室」

創「もう戻るよ。それじゃ」

SE:終話

SE:ボタン音

博将「はーい、俺っす」

翔「オレだけど」

博将「オレオレ詐欺っすか?」

翔「違えし。んで、文也だけど、寮戻ってるかもって。そっち行ってみて」

博将「了解っす。今、俺見回り中なんで、惠と一緒に行くっすか?惠だけ生徒会室戻した方がイイっすか?」

翔「あー…、じゃあ天惠だけこっち戻してくれる?生徒会室に誰も居ないの、拙いだろ」

博将「了解っす、んじゃ寮行ってくるんで」

翔「おう、早く戻って来いよ」

SE:終話ボタン

翔「…先に寮戻ってるなんて、薄情じゃ無えの。しかも、スマホ置いたままでさ」

SE:ドアの音

天惠「戻りました。…博が、文句言ってましたよ」

翔「へ?何で?」

天惠「文也先輩が、スマホを不携帯電話にしてる所為だと思います。何で翔先輩が持ってるんです…」

翔「オレも何でか解んねえけど。つーか、単に生徒会室に置き忘れてっただけじゃ無えのか?」

天惠「…そうですか…。……文也先輩は、置き忘れるような人ではないと思います。翔先輩ならともかく」

翔「オレならともかくって、オレにまで毒舌か?」

天惠「…いえ、そういう訳では」

SE:電話着信音B

天惠「…はい…」

創「今、何処にいる?」

天惠「生徒会室ですけど」

創「ちょっと、出られる?」

天惠「莫迦言わないでください、巡回業務は終わったんですから、通常業務しますよ。明日は文化祭なんですから、仕事が目白押しなんですよ」

創「解ってる解ってる。でも、終わらなくても最悪、俺が如何にかするから。悪いけどちょっと出てきて貰えるかな」

天惠「…嫌です」

創「そう言わないでよ。惠ちゃん、お願いだから」

天惠「ふざけないでください!だいたい、その名前で呼ぶなとあれ程言って――」

SE:台詞後半を遮るように電話着信音A

翔「はい、オレー」

博将「あ、瀬戸先輩。俺、今寮なんすけど」

翔「ん?如何した?」

博将「瀬戸先輩と世良先輩の部屋、ドアの鍵は開いてたっすよ、不用心っすね」

翔「中に文也が居んだろ?だったら不用心じゃ無えよ、別に」

博将「居ないっすよ。だから電話してるんじゃないっすか」

翔「居ない…?」

博将「はい、居ないっす。だから、生徒会室に戻ったかと思って掛けたんすけど」

翔「こっちにも戻って無えぞ」

博将「あれぇ?何処行ったんすかね、世良先輩」

翔「あー、オレも探すわ、取りあえず、オレ、自分のスマホと文也のスマホ持って行くし、見つけたら電話して」

博将「了解っす」

SE:終話

天惠「…会長、今の、聞こえてました?」

創「…うん、聞こえてた。…惠、ちょっと、直ぐ戻るから、君はそこにいなさい」

天惠「…解りました、切りますよ」

SE:終話

翔「あー、切っちまったか」

天惠「はい。会長に何か用でしたか?」

翔「いや、会長は、文也と何処で別れたのかと思ってさ。寮に居ねえって言うから、オレも探しに行こうと思って」

天惠「…そうですか。…生憎、僕ではお答出来ませんね…何せ、ここ数日、僕は文也先輩にお会いしていないので」

翔「体調崩して寝てたからなぁ…。でも、そんな会って無かったっけ」

天惠「そうですね…もう、3日以上お会いしてないと思いますよ」

翔「オレの記憶違いじゃ無きゃ、昨日、廊下で会っただろ」

天惠「そうでしたっけ…。すみません、僕の記憶には無いですが。探しに行かれるんでしょう?早く行ったらどうですか?」

翔「あー…そうだけどさ、お前、此処に一人で平気?」

天惠「一人で業務遂行にはならないですよ、直ぐに会長が帰ってくるそうですから」

翔「そういう意味じゃ無えけどな。んじゃ、まぁ、オレ、ちょっと探してくるわ」

天惠「はい、いってらっしゃい。…見つけたら、生徒会室に引きずってきてください、会計業務が山積みですから」

翔「わかった、伝えとく。んじゃ、行ってくるわ」

SE:ドアの音

創「わ…吃驚した」

翔「オレの台詞ですよ、それ。…会長、まさか走って来たんですか?」

創「まぁね。だって、俺が戻ってこないと、探しに行けないでしょ、瀬戸君」

翔「まぁ、今、追い出されたトコですけどね」

天惠「…会長、廊下は走らないでください。と、言いたい所ですが、今は不問にします。翔先輩、早く行ってください。走っても、今日だけは怒りませんよ」

翔「お、おう。珍しいな…、わかった」

SE:廊下を走って行く音

創「……さて…仕事、しようか」

天惠「くれぐれも、サボらないでくださいね」

創「少しくらいイイでしょう。それに、今は他に誰もいないしね」

天惠「…だからって呼びませんよ、兄さんなんて。それで…僕には解りませんが、話は出来たんですか?」

創「一応ね。惠ってば、怖いのに首突っ込む癖、相変わらずだね」

天惠「余計な事は言わないでください。……明日の文化祭、如何なりますかね」

創「さぁ、如何だろうね。俺にも流石にソレは解らないかな」

天惠「…相変わらず、使えませんね」

創「そうだね」

SE:FI、走る音

博将「あ、瀬戸先輩。やっぱ、鍵くらい掛けないと拙いっすよ。お蔭で、俺、ここから動けないじゃないっすか、不用心過ぎっすよ?」

翔「オレじゃなくて、文也じゃ無えの?だいたい、オレ、朝、アイツより先に出たんだしさ」

博将「どっちがどっちでも俺はイイっすけど。取りあえず、探しに行くんなら鍵かけてくださいよ」

翔「中に文也の鍵無かったのか?閉めれば良かっただろ」

博将「あったっすけど。勝手に借りる訳には、行かないっすよ?」

翔「お前、変なトコで律儀だな。まぁいいや、取りあえず、手分けして探そうぜ」

博将「了解っす。あ、じゃあ、俺、校舎内回るんで」

翔「んじゃオレは外回ってみるわ。一応、会長たちにも連絡しといてくれるか」

博将「はい。…でも、外には居ないんじゃないっすか?」

翔「何でだ?」

博将「だって、ここ数日、世良先輩って熱出して寝込んでたんでしょ?だったら、見回りも楽な校舎内だと思うっすよ」

翔「いやでも、今日、普通に生徒会室行ってたじゃん?文也、ああ見えて割とプライド高いから、敢えて外行ったんじゃ無えかな、と」

博将「…よく見てるっすね、流石幼馴染。もはや、恋人みたいっすよ」

翔「おい、冗談が過ぎるぞ、流石に」

博将「それじゃ、俺は校舎内探して、そのまま生徒会室に報告に行くっす」

翔「わかった。…俺も、見つけたら、行くわ」

SE:歩く音 徐々に、走り出す音に
SE:喧騒に近づいて行って、離れていくような音FI、FO

SE:外、夜、虫の音と木々の騒めきみたいなカンジ

翔「…ったく、何処に行ったんだよ…文也の奴…」

SE:水音

翔「ここ、立ち入り禁止だしな…流石に居ないか……」

文也「遅かったね、翔」

翔「文也!?お前、何処行ってたんだよ、皆、探してんだぞ。文芸部の奴が、お前に用事あるってよ?」

文也「…そう。でも、ぼくは、翔を待ってたんだよ。ここで、ずっと」

翔「別に部屋で待ってりゃ良かっただろ。また体調崩しても知ら無えぞ?」

文也「大丈夫だって。心配性だね、相変わらず」

翔「オレが心配性なんじゃなくてさ…お前が、しょっちゅう体調崩してんのが悪いんだろ」

文也「…翔って、優しいよね」

翔「は!?いきなり何だよ」

文也「だって、ぼくが体調崩したり、何かある度に部活だって休んで一緒に居てくれるし」

翔「当たり前だろう、ソレ。別にオレじゃなくても、誰でもそうするんじゃ無えの?」

文也「…本当はそんな大袈裟にする事じゃないって、知ってたくせに?」

翔「それでも放っておくなんて、するワケ無えだろ」

文也「だから、優しいって褒めてるんだけど」

SE:水音、水の中に入るようなやつ

翔「褒められた気、し無えんだけど。って、お前、何やってんの!?」

文也「見捨てないんでしょ?」

翔「冗談が過ぎるぞ、それ!大体、泳げないだろ、お前」

SE:ざぶざぶと水を掻き分ける音

文也「ほら、そうやって、追いかけてくる」

翔「だから、奥進むなって、危ない!」

文也「…あの時は、止めなかった癖に」

翔「悪かったって!だいたい、お前、自分から謝って来たじゃん、あの時」

文也「本当に?」

翔「そうだろ!?…まぁ、オレも悪かったよ…。今度はちゃんとお前を選ぶよ、それでイイだろ」

文也「じゃあ…ちゃんと選んでね」

翔「だから選ぶつってんだろ!危ないから、ほら、戻れって」

SE:水音、重い物が落ちるような、転ぶような音

翔「おいっ!何考えて……」

文也「苦しませないから、大丈夫だよ」

翔「首っ!手、放せよ…」

文也「…翔がここで死んでくれたら、会長の言った通りの七不思議だね」

翔「馬鹿っ!ふざけんな………」

SE:水の中に沈んでいくような音
SE:泡の音
SE:徐々にFO

SE:室内、書き物をするような音

博将「…それにしても、戻ってこないっすね。瀬戸先輩も、世良先輩も。見つかって無いのかなぁ」

天惠「流石に、そろそろ見つかってるんじゃないですか」

創「そうだとイイね。それじゃ、二人とも。そろそろ、業務切り上げて帰ろうか」

博将「終わって無いっすよ、業務。大体、世良先輩が何日も顔出さないから、会計書類手つかずじゃないっすか」

天惠「それは、会長が一人で全部片付けてくれるって言質取ったから大丈夫ですよ。ね、会長」

創「あれってそういう事になってるんだね…まぁ、イイけど。ほらほら、生徒会室閉めるよ、二人とも早く出て」

SE:ドアの音、鍵を閉める音

SE:サイレンの音FI

N「本日未明、市内の私立校にて、生徒と思われる遺体が二体発見されました。片方は死後数日以上が経過しており、片方は死後間もないとみて、県警では現在身元の確認を急ぐと共に事故と事件の両方で捜査を進めています。それでは、次のニュースです…」  

製作者:月森彩葉