Sincerely yours~親愛なるキミへ~ 三話

SE:学校の喧騒っぽいザワザワ

博将「…始業式しかないって、暇っすね」

創「生徒会役員がそんなダラけた事言わないでくれる?」

翔「せめて実力テストくらいやってくれたらなぁ」

天惠「新学期早々、テストなんて嫌ですよ、僕」

博将「とか言って、惠は学年上位じゃん、常に」

天惠「当然」

翔「当然って…言いきりやがったよ、この後輩…」

創「そもそも、生徒会役員が優秀じゃなきゃ駄目でしょ」

翔「いや、そうなんだけど、そうじゃなくてさ」

創「それに、今日は早く終わって瀬戸君的にはラッキーなんじゃないの?」

博将「そうっすよ、世良先輩、体調崩してお休みって言ってたじゃないっすか、ルームメイトとして放って放って置くんすか?」

翔「んな訳ないだろ。ってワケで、オレ先に帰るんで」

創「いいよ、今日の業務って七不思議しかないから」

博将「え?まだやるんすか?…マジかぁ」

天惠「会長がそうおっしゃると思ったので、僕と博で昨日一応調べておきました。報告しますね」

創「さすが惠、用意がいいね、なんて言うと思った?そんなに嫌かなぁ、七不思議」

天惠「ええ、嫌ですよ」

博将「そのお蔭で昨日、散々つき合わされたんすよ、俺…」

創「そんな訳だから、帰っていいよ、瀬戸君。お疲れ様」

翔「んじゃお先に」

SE:ドア

創「じゃ、ホワイトボードに必要な事書いといてくれる?」

天惠「つまり本当に七不思議の話をしたように偽装しろって事ですね」

博将「じゃ俺はいつも通りお茶淹れるっすよ」

創「うん、二人ともよろしくね。俺は本来の業務の準備するからさ」

SE:ペンの蓋を開ける音、ホワイトボードに文字を書く音

天惠「嘘も方便って言葉がありますけど、業務捏造は流石に如何かと思いますよ」

創「七不思議検証も立派な業務でしょ」

博将「さすがにそれを堂々と業務なんて言う生徒会は嫌っすよ、俺…」

創「それじゃホワイトボード書き終わったらひっくり返してね。裏面使うから」

天惠「解ってますよ。文化祭の準備中と当日の巡回スケジュールでしょう?」

創「話が早くて助かるなぁ」

天惠「はいはい…」

創「そうだ、惠」

天惠「その呼び方止めてくださいっていつも言ってますよね」

創「星が綺麗だよ」

天惠「…明日の月はさぞかし綺麗でしょうね?会長?」

創「あ。ごめん、冗談、殺害予告はちょっと止めて欲しいかな」

天惠「ふざけてないでさっさと仕事してください」

博将「ほんっと二人とも飽きないっすね…そういう遣り取り」

創「楽しいからねぇ。生徒会メンバーでこうしてるのさ」

博将「いきなりしみじみと何言うんすか…」

天惠「博、楽しいねって、こんな時間がずっと続けばいいのにって意味だからね」

博将「マジで!?」

創「あーあ、ネタばらししちゃった」

SE:喧騒、大きく

翔「例えばふざけて笑いあった事。例えば一緒に怒られた事。例えば一緒に泣いた事。そんな何気ない他愛のない時間は、気付いたら過ぎ去っていく走馬燈のような物だろう。あの時、その言葉の意味を知って居たなら、何と言っただろうか。桜が綺麗ですね?それとも太陽が眩しいですね?そんな言葉遊びも、きっと楽しかっただろう。今となっては、もうそんな言葉を交わす事もないのだけれど」

<<タイトルコール>>

SE:廊下を歩く音

翔「で、会長…なんでオレらは文化祭準備期間の放課後にこんなコトしてるわけ…?」

創「何でって、だって七不思議検証も大事な生徒会の業務じゃないか」

翔「また天惠に文句言われても知らねえぞ…オレ」

文也「その場合、翔も文句言われる側だからね、確実に」

創「だから言われないように俺たちだけで検証してるんじゃないか」

翔「いや、そんな堂々と言われても」

文也「どうせ桐生君にはサボリって言われるんだろうね、この業務」

創「じゃ今日は6個目の七不思議、印刷室の呪われた裁断機」

翔「あぁ…人の手首を切り落としにくるってアレか…」

文也「無理ある七不思議だよね…」

創「そうそう、その一番愉快な七不思議!」

翔「会長…楽しんでんなぁ…」

文也「でも、裁断機…置いてないよね…印刷室…」

創「何処から沸いて出るんだろうねぇ、裁断機。さっき印刷室でプリント用意した時には無かったんだよね」

文也「…わざわざ見に来た理由は…」

翔「いや、時間の無駄だろ、それ!」

創「やっぱりそう思う?」

文也「寧ろ思わない人居ないっていうか…」

翔「思うに決まってるっつーの…会長、絶対わざとやってるだろ」

創「あ、バレちゃった?ほら、偶には1年生コンビだけで仕事させてみようって思ってさ」

文也「あの二人なら優秀だし、滞りなく終わってると思うけどね」

翔「流石にちょっと後輩が憐れに思えてきたぞ…オレ」

SE:LINE受信音

翔「…会長、幾らなんでも校内では音消しとこうぜ」

文也「生徒会役員にあるまじき、だよね」

創「生徒会のグループしか音鳴らないようにしてあるから平気だよ」

翔「ってコトはオレにも来てんのか」

文也「生徒会グループだけでも、やっぱり生徒会役員にあるまじき、だよね…」

創「あ、惠からだ」

翔「…ん?貴方なら月明かりがなくても来れるでしょう?何だコレ」

文也「桐生君ってば…遊び心あるなぁ…。でもやっぱり生徒会役員として放課後でもスマホ弄るのはちょっと如何かと思うけどね」

創「あれ?瀬戸君は、意味知らない?」

翔「知らね。てか、何か意味あんの?この文章」

文也「翔ってば…相変わらず脳筋だねぇ」

創「まぁ、要するに、さっさと戻ってこいや、って意味だね」

翔「へぇ、そんな意味あるんだ」

創「世良君は詳しそうだよね」

文也「ぼく、文芸部なんだし、さすがに知ってて当然でしょ、会長」

翔「文也はそういうちょっと変わった言い回しとか好きそうだよなぁ」

創「月が綺麗と同じような感じで、知ってる人は色々知ってるからね」

翔「オレ、授業で先生がちょこっと言ったくらいの内容しか知らねーな。月が綺麗ですね、死んでもいいわ、だっけ。それくらいしか知らね」

文也「翔じゃ、知ってても使い道無さそうだしね」

創「もっと詳しくないと女の子にモテないよ、瀬戸君。女の子ってそういう言葉遊び好きって聞くし」

翔「馬鹿にすんの止めてくれよ!だいたい、ここ男子校なんだぞ、使う機会なんてねえよ」

文也「はいはい、拗ねない拗ねない」

創「現に使う機会あるじゃないか、惠から送られてきた訳だしね」

翔「さっさと戻れって意味だっけ。んじゃ会長先戻っててよ」

創「え?オレだけ?」

翔「だって天惠から怒らんの、会長だけでいいじゃん。正規の巡回終わらせてから戻るよ」

創「しょうがないなぁ。じゃ、俺、先に戻るね」

翔「んじゃ、残りの巡回任されたんで」

文也「精々、お一人で桐生君に怒られてね、会長」

SE:リノリウムを歩く音、扉を開ける音

博将「会長おかえりっす」

天惠「遅かったですね」

創「睨まないでよ。ほら、差し入れ買ってきたから」

博将「ぉー!ジュース!あざーっす!」

天惠「物で懐柔ですか。買収されませんよ?」

創「そう言いながら惠だって受け取るんでしょ」

天惠「これは…会長が遅かった罰です」

創「はいはい。それじゃ後の書類は俺が引き継ぐから、二人はこっちやってきてくれる?」

博将「巡回なら瀬戸先輩が現在進行形じゃないんすか?」

創「巡回じゃないよ、こっちこっち」

博将「え、二学期始まったのに、まだやるんすか、七不思議検証」

天惠「絶対嫌です」

創「そう言わずにさ、簡単だから行っておいで。昼間だし校舎内だから平気だよ」

天惠「…別に怖いんじゃ…」

創「だったら行って来てよ。中庭に行ってくるだけだからさ」

博将「中庭?」

創「そう、中庭」

博将「りょーかいっす。ほら、惠、行くぞ」

天惠「え、ちょっと、博!僕は行くなんて言ってないだろ」

博将「だって俺らが行かなかったら会長仕事してくれないだろ?」

天惠「…そうだけど」

博将「ほら、行くぞ」

創「いってらっしゃい」

SE:ドア

喧騒、放課後の騒がしさ

SE:風が吹き抜ける音

天惠「…誰もいない…」

博将「そりゃ、みんな文化祭の準備で忙しいんだろ」

天惠「…ええと、七不思議は…中庭の桜の下…?」

博将「何時の間にか連れ去られる、だっけ」

天惠「…中庭の桜…って…これかな」

SE:一際大きな風の音

天惠「わ…。……博?……あれ…?」

SE:バサって覆うような音

SE:投げ飛ばす音(落ちる音)

博将「ちょ!おい!いきなり投げる奴がある!?」

天惠「……博…?」

博将「え……何でお前が泣きそうなの…!どう考えても泣くの俺じゃない!?…ねえ、ちょっと!確かに脅かしたのは悪かったけどさ!投げられたんだよ!?こっちは!」

天惠「…ごめん…」

博将「だからぁ!なんで惠が被害者みたいになってんのさ!俺が泣かしたみたいだろ!」

天惠「…実際間違ってない…」

博将「えぇー…俺の所為な訳…?あー、もう、悪かったってー…。ほら、七不思議何も無かったし、生徒会室戻ろう?な?」

天惠「……無理」

博将「無理、じゃなくてさ…」

天惠「…会長に見られるのは…」

博将「えー…解ったよ…。っていうかさ、割と本気で痛かったんだけど。受け身ギリで間に合ったけどさ…普通、吃驚したからって投げ飛ばすかぁー…?」

天惠「…吃驚っていうか…怖かった、から」

博将「…うん、言ってるコトは可愛いよ?可愛いんだけどさ、そうじゃないだろ!だったらこう、悲鳴上げるとかさ、もうちょっとあるだろ!?」

天惠「……だって…」

博将「脅かして悪かったって。涙目で睨むの止めてくんね…」

SE:ドア

翔「あー!博将が惠泣かしてる!」

博将「ちょ!違わないけど違うっす!」

天惠「翔先輩…?」

翔「趣旨変えしたくなるくらい可愛いかもしんないけど、駄目だろ」

博将「だから、違うって!」

天惠「……文也先輩は?」

翔「あぁ、具合悪いって、寮だよ」

博将「文化祭目前だってのに、まだ駄目なんすね」

翔「本番までには治すだろ。元々あんま丈夫じゃないしさ、文也」

天惠「…心配ですね」

翔「まぁ、今は泣いてる後輩の方が心配だけどな」

天惠「泣いてませんから」

翔「そういう事にしとくか」

天惠「だから、泣いて無いですから」

翔「はいはい。んじゃ、生徒会室戻ろうぜ?」

博将「そっすね。会長が珍しく真面目に仕事してる筈っすから」

翔「マジで?あの会長、真面目にやるなんて明日雨かな」

博将「雨なんて降ったら、文化祭の準備大変じゃないっすか」

天惠「…あの人、本当は真面目だよ」

翔「え?何々?惠ちゃんってば会長のコト庇っちゃうの?」

天惠「別に、庇ってる訳じゃないですよ」

翔「じゃあ、苛めていいのは自分だけ、みたいなやつ?」

天惠「僕がいつ会長を苛めたっていうんですか」

博将「客観的に見たら毎日だけどな、惠が自覚してるかはさて置き」

天惠「博!」

翔「仲いいなぁ、一年コンビ」

博将「そりゃ、ルームメイトっすよ、俺ら。瀬戸先輩と世良先輩だってそうじゃないっすか?」

翔「そう見えるか?」

博将「見えるっすよ。俺らより仲良く見えるっすけどね」

翔「…そっか」

博将「なんか、解り合ってる感あるっすよ、先輩たち。ええと、ほら、長年連れ添った夫婦みたいな」

翔「なんつーたとえだよ!」

天惠「ああ、確かにそんな感じですね」

翔「ちょっと、惠ちゃーん?さっきまで泣いてたくせに随分と言うなぁ」

博将「寧ろ泣き顔見た仕返しじゃないっすか」

天惠「博!余計な事言うなよ」

博将「ほら、図星だろ。解りやすすぎだろ、惠」

天惠「戻るんだろ?さっさと動く!」

博将「戻りたくないって言ったの、惠なんだけどなぁ…」

SE:ドア

リノリウム歩く音3人分

翔「んで、お前ら何してたんだよ、中庭で」

博将「七不思議っすよ。中庭の桜の木の下に立ってたら、あっちの世界に連れて行かれるってやつっす」

翔「あー、あったな、そんなやつ。で、実際如何だった?」

博将「検証する前にちょっと脅かしたら惠に投げられたっす」

翔「それ、博将が悪いんじゃね?」

博将「そうっすか?ちょっとしたお茶目っすよ?ちょっと脅かしただけで投げられちゃ割に合わないっすよ」

天惠「当然の報いだ」

翔「条件反射で投げんのかよ、天惠。会長もさ、お前もさ、抜群に運動神経イイのに帰宅部だもんなぁ、勿体ねえ」

天惠「…会長と同列にしないでください」

翔「はいはい。んじゃ戻って真面目に仕事しようぜ、オレらも」

博将「俺らの仕事って何すかね」

天惠「もう、書類は全部片付いてると思うけど」

SE:ドア

翔「たっだいまー」

創「ああ、おかえり。3人揃って戻って来たんだ」

博将「あ、会長自分だけお茶淹れて狡いっすよ」

創「今日の書類は全部終わってるから君たちの分も淹れてあげるね」

翔「マジで終わってんだ」

天惠「だからそう言ったじゃないですか」

博将「あ、お茶なら俺が淹れるっすよ?」

天惠「博、いいよ。あの人が淹れたいらしいんだから、放っておこう」

創「せめて会長って呼んでくれる?あと、疲れてるだろうからやってあげようっていう優しさなのにどうしてそう可愛くない事言うかな、君は」

天惠「何か言いました?」

創「いいや、何も。それじゃ、淹れるから、みんなソコに座って待っててね」

翔「…平和だなぁ」

博将「…生徒会はいつでも平和っすよ」
製作者:月森彩葉