スクールウォーズ 22

「登校日って、なんでこんな夏休みが終わる間際にあるんだろうな?」
 久々に制服に身を包み、通学路を歩きながら湊が不意にそうこぼした。今日は登校日であるため、夏休みにもかかわらず学園へと向かっているのだ。
「終わる間際だから、ではないですか?」
 望美の言葉に湊が首を傾げる。不思議そうなその眼差しに気づいたのだろう、望美は鞄をかけ直すと口を開いた。
「夏休みって、どうしても生活リズムが崩れるでしょう? もうすぐ学校が始まりますよって教えることで、乱れた生活リズムを正させようってことじゃないですか?」
 長期休暇ともなれば、どうしても夜更かししたりと生活のリズムが夜型へとずれていきがちだろう。そんな生活リズムのままでは学校が始まっても体調を崩しかねない。だから夏休みの終わりが近づいてきた頃に登校日を設け、生活リズムの是正を促そうということではないかというのが望美の考えだった。
 それを聞いた湊が苦虫を噛み潰したような顔をした。たしかに彼女の言うことにも一理ある。が、生徒としてはこの暑い中歩いて登校し、さして面白くもない教師の話を聞かされるだけの登校日は迷惑以外の何ものでもなかった。友人たちと会えるのが唯一の楽しみと言えるだろうか。
 急な坂を上り終え、校門をくぐる。靴を履き替えると階段を上ってそれぞれの教室へと向かった。
 担任から注意事項などを聞かされるとそれでもう登校日にすることはなく、あとは家に帰ることも自由なのだが、教室には多くの生徒の姿が残っていた。冷房がよく効いている教室から出たくないというのも理由の一つだろうが、久々に会った友人たちとの会話に花を咲かせているのだろう。教室のみならず、廊下からも賑やかな笑い声が聞こえてきていた。
 鞄からペットボトルのお茶を取り出してのどを潤していると、ひらひらと手を振りながら近づいてきた友人たちに名前を呼ばれた。久しぶり、との言葉に笑顔を浮かべる。
「お久しぶりです、小百合さん、千恵さん」
 お元気でしたか、と問うと、もちろんとのうなずきが返ってきた。
「貴方も元気そうね、望美」
「夏休みはどうしてたの?」
 いつものように望美の席を中心にして座ると同時に、千恵がそう尋ねてくる。
「生徒会と科学部の皆さんでテーマパークに遊びに行きました」
 そう言ってテーマパークの名前を告げると、驚いたように二人が目を見開く。
「アルス・ノトリアって……あれなかなか入場チケット取れないことで有名なテーマパークじゃないの。三か月前から販売されるけど、早い者勝ちであっという間に売り切れるとか」
「ねー、ゴールデンウィークや夏休みなんかは特に取れないって聞くよ? 生徒会に科学部もってなると……十人分?」
 よくチケット手に入ったね、と感心しきりの友人たちに、望美は驚いたようにそうなんですか、とつぶやいた。そんなに人気のテーマパークでありながら忍足はどうやってチケットを入手したのだろうか、と考えてふと思い出した。忍足がコンサートマスターとして参加していた楽団、あれは恭二によればテーマパークの運営会社のお抱え楽団とのウワサもあるという。ならばその筋から入手してきたと考えるのが自然だろう。
「ほかはどっか遊びに行ったりした?」
「はい、海に。忍足先生の家が所有するプライベートビーチに連れて行っていただきました」
 望美の言葉に、また二人があんぐりと口を開いた。プライベートビーチ、と呆然とつぶやく。
「なんていうか、相当エンジョイしたわね、貴方」
 呆れながらも、どこかほほえましそうに笑う小百合にそうですね、とうなずく。
 そのあともたわいないおしゃべりをしているとチャイムが鳴った。顔を上げて時計に目を向けると、授業のある日ならば昼休みとなる時間であった。
「お昼か……二人はどうするの?」
 あたしは学食、とつぶやいた小百合が望美と千恵に視線を向ける。
「私も学食かなぁ……」
「わたしはお弁当を持ってきたので」
 鞄を示すと、そっか、とどこか残念そうなつぶやきを千恵が漏らした。
「それにそろそろ生徒会室に行こうと思いますので」
「夏休みも仕事? 忙しいわね」
 くすりと笑い、それじゃ仕方ないわねと小百合がつぶやいた。
「じゃ、あたしたちは学食でお昼食べたあと、部活に顔出してくるとしようかな」
 それじゃまた二学期にね、と手を振り合うと、望美は二人と別れて生徒会室へと足を運んだ。
 生徒会室に行くと、ほかの面々はまだ教室でしゃべっているのか悠の姿しかそこにはなかった。冷房がよく効いているところを見ると、彼はだいぶ前から来ていたのだろうか。
 こんにちは、と声をかけると、それに気づいた悠が読んでいた本から顔を上げた。ハードカバーの分厚い本に栞を挟んで机に置くと、笑みを浮かべてこんにちはと返してくれる。
 悠の向かいの席に腰を下ろすと、鞄から【コンクエスト】のガイドブックを取り出して開く。
「それ、まだ持ち歩いてるんですか?」
「ええ、ルールはあらかた覚えたんですけど、何となく」
 そんなことを話していると、勢いよく扉が開かれた。
「よぉ、久しぶり――って感じでもないな」
 片手を挙げて現れたのは恭二だった。それに、二人は声を揃えてこんにちはと挨拶する。
「そうですね、何だかんだで夏休みに会ってましたしね」
 どこか懐かしむように笑みを含んだ声で答えた悠に、望美もうなずいた。テーマパークにその後の海と、長期休暇でありながらけっこう顔を合わせていたように思う。
「こんにちはー」
 また扉が開いてそんな声が投げられる。今度入ってきたのは薫だった。そのうしろには詩織の姿も見える。
「あら、今日はわたくしたちが最後のようですわね?」
 小首を傾げながらそう言うと、彼女は空いている席へと腰を下ろした。
 全員が揃ったところで、いつものように弁当を取り出して昼食タイムとなる。
「そういえば在原さん、補習講座のある期間に学校に来ていたようですけど、何か用でもあったんですか?」
 そんな問いかけに箸を止めて顔を上げれば、向かいに座る悠が不思議そうに首を傾げていた。
「はい、補習を受けに」
 そう答えると、悠のみならず全員が驚いたように声を上げた。
「え、なんで? 在原ちゃん赤点なかったはずでしょう?」
「湊くんに付き合ってです。補習講座は希望者も受けられると聞いたので」
「あら、まじめですのね?」
 望美の言葉に、好ましいものを見たというような顔で詩織がほほえむ。
「そういえば、球技大会の準備で遅くなった時も時任くんが迎えに来てましたよね。彼とは親しいんですか?」
 わざわざ必要のない補習を受けるほどに、とつぶやく悠の声はどこかとげとげしかった。それにきょとんとした様子で望美は首を傾げる。
「湊くんはイトコですよ?」
 そう言ったあとで、ああ、と気づいて声を上げる。
「そういえば言っていませんでしたね。時任先生はわたしの叔父にあたって、その関係で家に居候させていただいてるんですよ」
 湊くんが時任先生の息子さんっていうのは知ってますよね? と問えば、一応は、と悠がうなずく。
「でも大丈夫なんですか? それ」
 時任先生の家って、奥さんあんまり家にいないって聞いたことありますよ。もごもごと口の中でそうつぶやく悠の様子を不思議そうに眺め、望美は口を開く。
「大丈夫か、とはどういう意味ででしょう?」
 本当に何を言われているのか理解できない、そんな表情で問い返した望美に悠は何か言いかけ、結局やめた。まだ半分近く中身が残っているにも関わらず、弁当箱のふたを閉める。
「僕、【コンクエスト】の準備をしてきますので!」
 慌てたようにそう言うと、悠は弁当箱を鞄の中に突っ込んで着替えのためのスペースへと向かった。
「……若いなぁ」
 呆れたようにも、ほほえましいと思っているようにも取れる声音でつぶやき、恭二は揺れるカーテンに視線を向けた。
「それで、今日のコンクエストはどこで観戦なさいます?」
 まるで先ほどのやり取りがなかったかのような態度で問いかけた詩織に、望美は箸を止めて考え込む様子を見せた。
「現場に行って見ようかと思っているんですが」
「えー、やめた方がいいと思うなー」
 けれど、望美の言葉に薫が異を唱えた。
「だって今日の戦場プールでしょう? 下手したら濡れちゃうよ?」
 着替えとか持ってきてる? と問われてかぶりを振る。水泳の授業でもあるならともかく、普通の時に着替えなんて用意しているはずがない。
 タオルとかもないんでしょう? と問われて素直にうなずく。ハンカチくらいは持ってきているが、その程度だ。
「だったらやめておきなよ、ね?」
 なおも引き止める薫に、最後には望美もうなずいたのであった。


 着替えた悠が生徒会室を出ていき、皆が昼食を終えて食後のお茶を飲んでいた時だった。不意にアラームが鳴り響き、プールが征服された旨の放送がスピーカーから流れた。同時にテレビに電源が入る。映し出されたのはプールサイドで腕組みして立つ【青藍】の姿だった。水泳部が練習に使っていたのだろうか、プールにはなみなみと水が張られていた。
「お、始まったか」
 そんな恭二の声を合図に全員でテレビを見つめる。
 志貴ヶ丘学園のプールは中等部と高等部でそれぞれ存在し、どちらも屋内プールである。全面ガラス張りの建物は内外共に様子をうかがうことができた。今も【青藍】の背後のベンチ越しに校舎が見えている。目を凝らせば掃き出し窓のアルミサッシも見ることができた。
「いつも思うけど、うちの学校って設備豪華だよねー」
 プールがある高校って珍しいよね、と薫がつぶやく。
「屋内プールだし、さすが私立って感じ? 金かかってるよねぇ」
 その声音は感心しているようにも、呆れているようにも取れる。
 そんなことを言いながらのんびりと見守っていると、不意に画面がぐるんと動いた。アップで映し出されたのは緑のヒーロースーツに身を包んだ人物――【ジャスティスグリーン】だ。
『【ジャスティスグリーン】参上! オレたちがいる限りお前たちの好きにはさせないぞ!』
 名乗りを上げるや否や、【ジャスティスグリーン】は地面を蹴って【青藍】に殴りかかった。半身になってその攻撃を避けると、【青藍】は腕組みを解いた。
『きみの思う通りには行かないと思いますがね?』
 挑発するようにそう言って、口の端に笑みを刻む。
『バカにするな! 正義は必ず勝つ!』
 叫んだ【ジャスティスグリーン】が踏み込む。目にも留まらぬ早さの連撃を、けれども【青藍】はすべて見切っているのかひょいひょいと避けていく。大振りな蹴りを避けると、くるんとトンボを切って距離を取った。鞘を払って剣を構える。トン、と地面を蹴って駆け出すと袈裟懸けに斬り下ろした。
 あわてて飛びすさる【ジャスティスグリーン】を【青藍】が追う。突き、斬り上げ、払い、そしてまた斬り下ろす。流れるような一連の動作を【ジャスティスグリーン】はあるいは弾き、あるいは避けるが、余裕の表情で避けていた【青藍】と違ってどこか追いつめられたようにも見受けられる。
『さて、そろそろ詰みと行きましょうか?』
 ふわりと笑み、【青藍】が剣を構え直す。胸の高さで水平に、それはいつかも見た突撃の構え。
 ゆるやかな笑みが消える。大地を蹴って【青藍】が駆けた。
 恐るべき加速を見せる【青藍】を真っ向から見つめ、【ジャスティスグリーン】もまた身構える。
『負ける……ものかぁ――――ッ!!』
 叫んだその瞬間、彼の体を光る何かが覆ったように見えたのは望美の目の錯覚か。
 【ジャスティスグリーン】は【青藍】の突撃を避けることなく真正面から受け止めた。拳で剣の腹を叩いて軌道を反らし、その勢いを利用した上段回し蹴り。
 側頭部を狙ったその蹴りを、【青藍】はとっさにしゃがむことによってどうにか避けた。そのまま前方に転がって距離を取る。
 起きあがると、振り返りざまに回避の代償で手放してしまった剣に一瞬だけ目をやる。
『お前にだけは負けるわけにはいかない!』
 どこか憎しみすら感じさせるその叫びに、【青藍】はぽかんとして【ジャスティスグリーン】を見やった。
『……僕はきみに恨まれるような覚えはないんですが』
 思わずだろう、そんなつぶやきが【青藍】の口から漏れる。だがそのつぶやきは【ジャスティスグリーン】には届かなかったらしい。
 雄叫びを上げながら【ジャスティスグリーン】が突っ込んでくる。構えも何もあったものではないような、がむしゃらな攻撃。だがその攻撃は先ほどまでとは比較にならないほどの速度であった。
 避けることをあきらめたのか、徒手のまま【青藍】が身構える。振りかぶられる拳に合わせて腕を掲げ、ガードする。
 防がれたと見るや、【ジャスティスグリーン】はさらに拳を振りかぶった。巧妙に位置を変えながら攻撃を捌く【青藍】だったが、後ずさろうとしたその足ががくんと落ちた。いつの間にかプール際へと追いつめられていたのだ。
 ばしゃん、と音を立てて盛大に水しぶきが上がる。
「わー、やっぱりプール行かなくて正解だったね、在原ちゃん」
 あれ、確実にギャラリーの一部濡れたよ、と薫がつぶやいた。
「機材が濡れていなければいいんですがねぇ……。【特殊報道部】も災難ですわね?」
 詩織も眉をひそめ、右手で口元を覆ってそう言う。それほどまでに上がった水しぶきは大きかった。むしろ水柱というべきかもしれない。
 時ならぬ雨が落ち着くと、水面に人影が浮かび上がった。【青藍】と【ジャスティスグリーン】だ。両者は大きく息を吐くと、互いに向き合って身構えた。飛び上がるようにして前に移動すると互いに打ち合う。水の抵抗があって動きにくいのだろう、その動きは先ほどまでと比べると幾分か鈍い。
 小さく舌打ちすると、【青藍】は打ち合いをあきらめてプールサイドへと向かった。勢いをつけて体を陸上に引き上げる。そのままプールサイドを駆けると手放した剣を回収した。
『仕切り直しと行きましょうか、【ジャスティスグリーン】』
 濡れてまとわりつく髪をうるさそうに払いのけ、剣を構えて告げる。【ジャスティスグリーン】もまたプールサイドに上がると身構えた。
 睨み合ったのは一瞬。互いに踏み込みは同時だった。
 ドサリ、と重い音がプールサイドに響く。それを追いかけるようにしてて、カラカラと剣が滑っていく音がする。
 膝をついたのは【青藍】であった。
 しばらく膝をついたまま微動だにしない【青藍】であったが、やがてゆっくりと立ち上がった。落とした剣を拾って鞘へと納める。
『仕方ありません、この場は退くとしましょう』
 撤収、と戦闘員たちに向けて叫ぶと、打たれた腹をかばうようにしながらプールから立ち去る。
 【ジャスティスグリーン】もまた動かなかったが、やがて彼も顔を上げた。右腕を天高く掲げて叫ぶ。
『この学園の平和はオレたちが守ってみせる!』
 その言葉を残して彼もまたプールサイドを駆けていく。
『勝者【ジャスティスグリーン】! 【正義の味方部】、見事プールの防衛に成功しました!』
 声高に叫ぶリポーターの声を聞きながら、あーあ、と薫がため息をついた。
「中須ちゃん負けてるじゃん」
「あれはな、まぁ仕方ないだろ」
 苦笑を浮かべながらそう言うと、恭二は悠の荷物に手を伸ばした。水泳の授業の時に持ってくるようなビニールバッグを手に取ると、更衣スペースへと向かう。悠のロッカーを開けると、中から彼の制服を取り出してビニールバッグへと詰めた。
 在原、と呼ぶ声と共にビニールバッグが望美の元に飛んでくる。
「中須の着替え、持って行ってやれ」
 受け止めたビニールバッグを手に、問うような視線を向けるとそう言われた。たしかに濡れたままこの校舎に戻ってくるわけにはいかないだろう。プールの横には更衣室とシャワールームが存在するので、そこまで着替えを持って行ってやれと言うのも理に叶っている。
 了解しましたとうなずくと、望美はビニールバッグを手に生徒会室を飛び出した。


 昇降口で靴を履き替えて外に出ると、そのまま北棟校舎をぐるっと回ってプールへと向かう。
「中須くん」
 途中でこちらに向かってくる【青藍】の姿を見つけると、望美は大きく手を振りながら駆け寄った。
「どうぞ、着替えです」
 言葉と共に差し出されたビニールバッグに、仮面の下の瞳が驚いたように見開かれる。だがそれはすぐに笑みへと変わった。
「ありがとうございます。すぐに着替えてきますので、少しだけ待っていてもらってもかまいませんか?」
 言われるまでもなく待つつもりだったのでうなずいてそう言うと、彼は嬉しそうに笑って更衣室へと駆けていった。
 更衣室の建物の前で十分ほど待っていると、ビニールバッグを手に悠が出てきた。が、なぜか湊と一緒で、しかも互いに不機嫌そうにそっぽを向いている。
「お待たせしました」
 そう言いながら近寄ってきた悠が小さく頭を下げるのに、そんなに待っていないとかぶりを振る。
「湊くんも一緒だったんですか?」
「……ええ、たまたま一緒になったようです」
 今日は暑いですからシャワールームを使っていたようですよ、と言われて納得する。悠を待っていた十分ほどの間で、額や背中に汗が浮かんでいる。シャワーを浴びたくなる気持ちも理解できた。
 行きましょうか、との言葉にうなずくと、二人は生徒会室へと向かって歩き出した。


「「ただいま戻りました」」
 生徒会室の扉を開け、声を揃えてそう告げるとおかえり、と三人に出迎えられた。
「さて、反省会じゃないが、何か質問とかあるか?」
 元のように全員が席に座り、新しいお茶が配られたところで恭二がそう問いかけた。考え込むように少し首を傾げてから望美が小さく手を挙げる。
「先ほどの戦闘ですが、途中から【ジャスティスグリーン】が明らかに強くなっていませんでしたか?」
 望美の発言に、上級生たちがわずかに目を瞠った。
「いいところに気がついたな。以前強化スーツについて多少説明したのを覚えているか?」
 ニヤリと笑った恭二が、確かめるようにそう問いかける。わずかに視線を上に向け、望美は記憶をたどる。強化スーツの機能は、たしか……。
「運動機能の強化、でしたか? 装備者の戦意によって補正が加わる、と聞きましたが」
 望美の答えに、正解、と満足げに恭二がうなずく。
「ただ、強化スーツと一言で言っても【世界征服部】と【正義の味方部】とでは少々性能が異なっていてな。【世界征服部】の強化スーツの方が全体的に能力が高くなっている」
「それ、ずるくありませんか?」
「まあ最後まで聞け。たしかに一見ずるく見えるが、その分【正義の味方部】の強化スーツには仕掛けがある。戦意が一定の値を超えると、強化スーツのリミッターが解除されて通常よりも大きな補正が受けられるって仕組みだ」
 なるほど、と望美はうなずく。たしかに一見不利に見える【正義の味方部】だが、補正機能に差があるのであれば最終的には条件は同等と言えるのかもしれない。それに追いつめられて強くなる、というのはある意味正義の味方(ヒーロー)のお約束と言えるだろう。
「それで【ジャスティスグリーン】があんなにも強くなったわけですね」
 納得したようにうなずいた望美に、そういうこと、と恭二が答える。
「でもさ、そういう仕組みを作っちゃう広瀬センセイってちょっとおかしいよね。戦意を計るとか意味わかんない」
 頬杖をついてつぶやいた薫の言葉に全員が苦笑を浮かべる。たしかに、戦意の上下動だとかリミッターが解除される一定数値だとか、どうやって測定しているのだろうか。もっとも、仕組みを説明されても理解できるとはとうてい思えないが。
「さて、ほかに質問がなければ解散となるが、どうだ?」
 水を向けられた望美は再度思案するが、ほかに疑問点は見つからなかったのでかぶりを振る。悠も同様であったようで、また二学期に、と挨拶を交わしてその日はお開きとなったのであった。
製作者:篠宮雷歌